第5話 後悔先に立たず5
それからの年月というのはあっという間なもんで、日々は一定のリズムで動き続け、特筆すべきこともないまま俺は着々と大人の階段を上っていた。
しかし、だからと言って急に日々が飛んではついていけないかもしれないから今までの人生を簡潔にまとめる。
俺の名前は柊真というらしい。母親が柊琴葉、父親が柊信雄でどちらとも平民だ。
平民と言っても人間界では階級制度というのはあまり意味がなくなっていて、今から遡ることおよそ500年位前に身分制度というのは崩壊し、今は民主主義という形態をとっている。
であるから、形式上は平民だが別段貴族と呼ばれる人たちとの格差はない。
次に人間界の教育制度について話そう。
人間界の教育制度は6歳から入る小学校、そこで6年ほど勉強したのち入る中学校、そこで3年ほど勉強したのちに高校に入りたい人は入り、入りたくない人は入らない。
そこでさらに3年間勉強した後、もっと専門的なことを勉強したい人たちが入るのが研究学校。
大体は高校を卒業したら社会人となる。そして俺は今15歳だ。
高校には入るつもりなので受験勉強というものをしている。
次に俺の過去、と言ってもこれを読んでいる人にとっては現在か。
まぁ、今に至るまでの略歴を話そう。
俺は前世の記憶を持っているがため、同級生のバカ騒ぎには精神年齢上ついていけなかった。
そのため、他の者たちとは交流することがなく、いつも一人でいた。
つまり友達ができなかったということだ。
そして今は受験勉強のため塾というものに通っているのだが、受験勉強というのも前世の記憶をもってすればほぼほぼ余裕であり、入塾時から模試というもので全国一位、悪くても三ケタ台を出し続けていた。
しかし、前世の記憶をもってして余裕なのは魔術だけの話で、そのほかの教科はたゆまぬ努力によってその順位を出し続けていた。
もちろんその塾の特待生制度というものも受けていて、授業料はタダとなっている。
いつしか回りも奇異の眼から羨望の眼へと変わり、裏では「平民の星」と呼ばれているらしい。
ちなみに今までで勇者らしい人物とは出会わなかった。
高校はもちろん人間界でトップの高校に入るつもりだ。その名もユクドニア国立北コルロ校。
ユクドニアという人間と魔族の戦乱から遠く離れた場所にある国の高校だ。
ちなみに俺の暮らしている国はオリンパス。
戦乱の地からほどほどに離れた場所にある。
北コルロ高校に受かれば寮生活になるだろうからあんまり関係ないかもしれないがここも平和な地域らしい。
まあ俺が思うに平和というのは一種の病魔であって他人とすぐ比べたがる人間は争いが大好きな性質であるから平和が長続きしてしまうと自分の所属している集団から敵を見つけ出そうとするものだと思うがな。
つまり争いは人間の集団の性質上なくならないものだとは思う。
そんなことを考えながらすっかり暗くなった塾からの帰り道を歩いていた。
すると、何やら公園のほうから怒号のようなものが聞こえる。
野次馬になってしまうかもしれないが少し気になったので暗闇に見えるその集団に近づいてみた。
近くによってみると怒号の内容が鮮明に聞こえた。
「公爵家が!」やら「俺たちを見下してんじゃねぇよ!」やらとにかく尋常ではないものが聞こえた。
そいつらに気づかれないようにそれとなく見てみると、どうやら三人が何かを囲んでいるらしい。
そしてその三人が怒号を発している。
何を囲んでいるのか気になった俺はもっと近づいてみた。
すると何と囲んでいたのは一人の人間だったようだ。
俺は自分でも気づかないうちにその三人を止めに入った。
「お前ら!何をしている!」
すると三人はびっくりした様子でこちらに振り返った。
しかし、俺の貧弱そうな体を見たからかさっきの怒号を放っていた威勢をすぐに取り戻し、
「なんだぁ。てめぇ。俺らになんか用かぁ?」
と絡んできた。
こういう人を見下すようなやつにはお仕置きが必要だ。
そのため俺はほんの少し魔力を使うことにした。
ここで魔力というものの説明をしよう。
魔力というのは呼吸していると生み出される。
しかし、個人によって、生み出された魔力の容量は違っていて、過剰な魔力は体外へと排出される。
また、容量によって魔力耐性が付く。容量が多ければ多いほど魔力耐性も強いということだ。
そんな魔力の使い方は脳でイメージすることによって使える。
だが、そのイメージが自分の保有する魔力量では表現できないときは一部分しか具現化されない。
また、イメージの具現化に伴い、その負荷は脳に来るのでそこは気を付けないといけない。
例としては金を生み出す時だ。
金は1ミリグラム生み出しただけでも並みの魔術師ならば脳に負荷がかかり過ぎて死んでしまう。
まぁこれは脳の出来によるのだが。
俺は重力をイメージした。
イメージの仕方は大体リンゴをつぶすようにすればあっているだろう。
ただ今回はつぶしてはいけないのでほどほどにしたが。
すると、三人の足はがくがくと震え始め、「お、覚えてろよ!」と言い残し走り去っていった。
俺は彼らが走り去ったのを見届けた後、囲われていた人物のほうへと近づいた。
月明かりに照らされた顔はショートカットを携え、無表情で、ただ澄んだ目をこちら側に向けていた。
身長は大体俺の肩ぐらいでスレンダーであった。
男と言われれば男と思うし、女と言われれば女と思えるような、そんな曖昧な体躯をしていた。
「大丈夫か?」
するとその人はただこくりとうなずく。
「歩けるか?」
その人はまた黙ってこくりと頷くだけだった。
「今日は送るよ。」
頷いた。これは同意の意ということでいいのだろうか。
「こっち」
そういうとその人はすたすたと歩き始めた。
声から判断して多分女だろう。
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