第4話 後悔先に立たず4
俺は声の限り泣き叫んだ。するとドアが開き、ドタドタとあわただしい足音が近づいてきた。
そして右の木の柵の上から女性がのぞき込むようにして俺を見てきた。
女性は栗毛色の髪を持ち、髪の色と同じ深さの色の眼をぱっちりとさせていて、心持ち幼い印象を持たせるような容姿だった。
「はいはーい、どうしたのかなぁ。おしっこかなぁ。」
そういうと彼女は若干たどたどしい手つきで俺の下半身に取り付けられているであろう何かを確認するような仕草をした。
そしてすぐにそれではないとわかると、また問いかけるように
「こっちじゃないか。じゃあご飯かなぁ。」
と言って俺を抱きかかえるとそばにあった椅子に腰かけた。
俺はご飯で正解だという意思表示をするため「うー」と唸った。
すると彼女はころころと笑い、
「そうだねぇ、急に持ち上げられてびっくりしたねぇ。」
といとおしそうに言ってきた。全然違うのだが。
そして授乳は終わった。
ほう、授乳中はどんなであったか聞きたいと。
そして願わくばおっぱいの感触について聞きたいと。そんな顔をしているな。
無論、その答えはノーだ。
第一母親というのは性的対象としてみるものではないし、それに自分の母親が性的対象として見られるのを俺が好かん。
そういうことだからここで明言は避けよう。
では時を進めよう。
そして俺はその後も何度か授乳してもらいながら、下半身の物を何度か片付けてもらいながら、ただぼーっと、たまに思索にふけりながら時を過ごしていた。
そして一人しりとりという何とも悲しい遊びもそろそろ言葉が出尽くしてぽつぽつとしか続かなくなったころ、窓から差し込んでいた日の光も入らなくなってすっかり暗くなってしまった部屋に入ってくる足音が一つ聞こえた。
暗闇ということもあってその人物がどういう風貌をしているのか把握できずにいたため俺の脳内には緊張が走った。
もしかしたら強盗かもしれない。
或いは俺の親に恨みを持った誰かが殺しに来たのかもしれない。
そんな不安がよぎりどうにかしてこの家を守ろうと体を動かす試みをしてみたのだが残念ながら俺の体は言うことを聞かなかった。
絶望に打ちひしがれつつもただ刻々と最後の時を待っていた俺はせめて俺の母親だけでも逃がそうと思いつき、精いっぱいの泣き声を上げた。
するとドタドタという足音が聞こえ、扉が開く。
俺からは見えないほう、ちょうど木の柵で隠れてしまっているところで明かりがついたらしく辺りはさっきとは打って変わって一気に明るくなった。
急な光に若干まぶしさを覚えつつ、母親に逃げるように言うためにより一層泣きわめき、少ししか動かない体を目いっぱいに動かした。
すると、なにやらあちらから会話が聞こえてきた。
やさしさに包まれた母親の声と、もう一方は聞きなじみのない低い声だった。
その二人は親しげに会話をしていた。
「あら、あなたお帰り。ちょっと待って、今泣き止ませるから。」
「お、おう、俺にびっくりしたのかな」
「うふふ、多分そうね。あなたのドッスンドッスンっていう足音にびっくりしたんじゃないかしら。」
「それは悪いことをしたな。」
この会話を聞いている限り、多分相手は母親と近しい関係の誰かなんだろう。ひとまずは危険な相手ではなくて安心した。
俺は泣きわめく理由がなくなったので泣き止んだ。
「あら、私たちの会話でも聞いていたんでしょうかね。」
「さぁ、どうだろうな。まぁとりあえず俺を味方認定してくれてよかったよ。」
そう言ってころころとした笑い声と豪快な笑い声が部屋に響き渡った。
そして見たことがない顔が俺を上から覗き込んだ。
無性ひげを生やしていて、無頼漢を感じさせるような顔つきで、瞳の奥はどこか優しい感じがした。母親は
「お父さんですよ~。」
と言ってその男に続いてのぞいてきた。なるほど、こいつが俺の父親らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます