第3話 後悔先に立たず3
目が覚めたら俺は高くて太い、角が丸まっているところにどこか作り手の優しさを感じる木の柵で囲まれていた。
前方を見てみてもきっちりと並べられている木の板を眺めることしかできないのですぐに退屈した俺は横を見て、木の柵の木目と途切れ途切れに見える木の柵の外の世界に意識を向けた。
あまり本が入っていない本棚、窓の光が当たるように設置されている椅子、壁紙と合っていない扉、そのほかいろんなものを少し見渡しただけでついに見るものがなくなってしまった。
それぐらいこの部屋は簡素だということだろう。
次に俺は自分について意識を向けた。
背中に重力を感じるということは今俺は上を向いているのだろう。
体は幾分か不自由で、重力に逆らって首を持ち上げられない俺は今の状況を事細かに確認できずにいた。
何度も首を上げようとしたが結局無理だとわかり、とうとう詳細な状況確認をあきらめた俺はあの女に言われた“転生”という言葉の意味を考えることにした。
というかそれぐらいしか今の暇をつぶすのにちょうどいいものはなかった。
あれだけの説明ではよくわからないのだが、一つ分かったのは魂というのはどうやら循環するものらしい。
しかし、前世の記憶をもって、とはいかない。
だから“転生”というものを行う前に記憶をまっさらな状態に戻すのだろう。
だが、思い返す限り、俺の転生はいつもと違うらしい。
具体的にどこがと言われるとそれは俺が前世の記憶を持っている点だ。
まあ、言語知識をなんちゃらとも言っていたがこれは無視してもいいだろう。
その記憶を有用に使ってこの世界を救ってくれだったか?まあそんな理由で俺は前世の記憶を持っている。
しかし、あの女はそれ以外に何も言ってこなかった。
ということは俺の転生が他と違うのはその点だけだろう。
とすると、順当にいけば…俺は今赤子の段階なんだろう。
道理で体の自由が利かないわけだ。
ようやく状況がつかめてきた俺はひとまず落ち着き、おなかがすいてきているのを感じた。
こういう時は母親の乳房にごめんになるのだろう?知っているぞ。それくらいの知識は持っている。
しかし、問題がある。それはどうやって呼び出すかだ。
ん?魔法を使ってみてはどうだと?何を言っているんだ。魔法はそんなに何でもできる道具ではないぞ。
第一戦闘しかできなかった俺にそんな有用な魔法があるわけがないだろう。
ということは残された選択肢は一つとなった。
しかし、そのことを前世の記憶を持った精神年齢が大人の俺は積極的に肯定できずにいた。
口に乳房を押し当てられるというのは百歩譲っていいだろう。前世でも俺を篭絡しようとした女たちにいっぱい押し当てられていたからな。
しかし、泣き叫ぶというのは難儀だ。
いや、しかしそれが年相応のことなんだろう。おなかが空いた赤ちゃんが母親を呼び出すために急に「お母さーん、ミルクー」とでも言ってみろ。
授乳どころではなくなるぞ。
さらに先ほど気づいたことがある。
それはこの体では言葉すらうまくしゃべれないということだ。
試しに「お母さーん」と小声でしゃべってみようとしたがとしてみたが、喃語というのだろうか、あえいでいるみたいになってしまった。
仕方ない。泣き叫ぶか。そして俺は覚悟を決めて泣き叫んだのであった。
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