第2話 後悔先に立たず2
次に目が覚めた時にはやけにふわふわしたところにいた。
体に重力を感じず、まるで本で読んだ宇宙みたいだった。
あたりは包まれるような白い光で覆われ、目の前には人間の女、と言っても人間の部分はどうやら形だけのようだがそいつが微笑みを携えながら立っていた。
久々の光に感動を覚えつつも、目の前にいる女を怪しく思っていた。
そんな時だった。女が脳へと透き通るような声でこんなことを言ったのは。
「あなたには我々に協力してもらいます。我々の世界でも今、あなたの世界と同じように一方だけ非常に強い状態へとなろうとしています。勇者として召喚される“サンドラ”という人物ですが、正直に申しますと、宇宙規模で最強となるかもしれません。あなたにはその人物の制御をお願いしたいのです。」
俺は状況がうまく呑み込めなかった。
ここはどこだろう。なんでここにいるんだろう。そして俺はどうなってしまったのだろう。ましてや、そんな混乱状態の俺が目の前の女の話を聞いているわけがなかった。
すると、女はそんな俺の心を見透かしたようにこう言ってきた。
「ここは我々の世界の転生管理局です。あなたは世界の破滅とともに死亡し、前世で振るっていた実力を買われて我々への協力を今勧められています。普通の魂だと記憶消去をしてから送り出すのですが、あなたには前世の記憶を思う存分有用に使ってほしいので、そのような真似はしません。」
なるほど、やはり俺の世界は破滅してしまったのだな。
思い出が一挙に押し寄せてきて悲しい事実から目をそむけたくなる。
そうか、俺はあんなに戦争しかなかった世界でも、憎しみの色で塗りたくられた眼をした者しか周りにいなかった世界でも愛していたのだな。
ありがとう、前世のみんな。
やけに尊厳とかは気にするが俺を存分に甘やかしてくれた父親、誰にでも優しくてみんなからの人望も厚かった母親、学校では少し浮いていた俺に帰り道とかでも積極的に話してくれた同級生、今となっては伝えられないかもしれないが実はそれも含めて全部、愛していたんだぜ。
伝えたかったな。
今となっては遅いだろうがこれだけは言わせてくれ。
俺はお前らを忘れない。だからお前らも俺を忘れてくれるなよ。
少し感傷的になってしまったが、本題に戻ろう。こいつは何と言ってきたんだ?
「あの、聞いてなかったんでもう一度内容を話してもらえますか?」
すると女は了承したという意図を込めているのだろう、微笑みをさらに柔らかくして先ほど言ったことを繰り返した。
「あなたには我々に協力してもらいます。我々の世界でも今、あなたの世界と同じように一方だけ非常に強い状態へとなろうとしています。勇者として召喚される“サンドラ”という人物ですが、正直に申しますと、宇宙規模で最強となるかもしれません。あなたにはその人物の制御をお願いしたいのです。あなたは世界の破滅とともに死亡し、前世で振るっていた実力を買われて我々への協力を今勧められています。普通の魂だと記憶消去をしてから送り出すのですが、あなたには前世の記憶を思う存分有用に使ってほしいので、そのような真似はしません。」
なるほど。話を聞く限り前世で振るっていた実力を買われたらしい。
まあ確かに勇者と戦った時も余裕があったから俺が強いというのは事実なんだろう。
しかし前世の力がかわれたということは力というのは魂と関係があるのか。
俺が持っていた力は、まぁこれは俺に限らないのだが魂と結びついているんだろう。
そして今、その力が買われ、他の世界へと転生することになったのではなかろうか。
それでも、いや、それだからこそ疑問が残る。
それはなぜその人物に対抗するように俺を勇者の敵側に置くのではなく、制御をすることになるのかということだ。
こう言っちゃなんだが、俺みたいに強い奴を魔王側に何人も配置してそいつが死ぬまで拮抗してればいいじゃないか。
そしてそいつ、“サンドラ”といったか?の死後は俺達で故意に人間を残すようにすればいい。で、そいつの魂はそちら側で何とかしてもらえばいい。
俺は女にそんな提案をしてみた。
すると女は聞いているのかいないのかわからなくなるぐらいにただ微笑みを湛え続け俺が話し終わるとこんなことを言った。
「それはその勇者がどんな強者を束にしようともなぎ倒してしまう可能性があるからです。」
へぇ、それは強いこった。だとしたらそれは前の世界でも問題にならなかったのかね。
「いえ、それは新たに生まれた魂ですので。」
ん?新たに生まれた魂?なんで新たに生まれるんだ?
「お古の魂だけでは補いきれないところもあるので、新たな魂を生み出すことがあるんです。あなたの魂を生み出すときもなかなか成功ではあったんですけど今回のはどうやらうまく行き過ぎたようで…」
だとしたら迷惑な話だ。
要はこいつらの尻ぬぐいを俺たちがやるということだろう?
俺はほかの奴の尻ぬぐいが大っ嫌いな質でね、当然こんな依頼やるわけないさ。
そんな俺の予想に反して俺は、というよりかは俺のまだ知らない部分の俺は、また俺の世界のような悲劇が起きてほしいと思ってないらしかった。
こんな一見迷惑な話、普段の俺だったら即断で断っていただろうが、このときの俺の偽善には強く響いたようで、気づくと二つ返事でオーケーしていた。
「では転生を行う前にあなたの知識とこの世界の言語知能とを結びつけますね。無知の状態から言語を学ぶのであればそれほど苦労はしないのですが、他の言語の記憶を持っている状態で学ぶのには少し苦労を要するので。」
そして俺は深い眠りへといざなわれた。
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