魔王転生
Black History
謳歌する一学期
第1話 後悔先に立たず
俺は後悔の淵にいた。
これはこの世界に生まれてから感じたあらゆる感情、人間どもの子供を殺したりついには人間どもを根絶やしにしてしまった時のものよりも深く俺を傷付けるものだった。
この世界は現在、破滅へと向かっている。
なぜかというとそれは俺の、いや、ここで言い訳が許されるなら俺を魔王として担ぎ上げた者たち、先祖のころから脈々と続く歴史やら伝統やらが俺の情動或いはその場しのぎの価値観に影響した結果だ。
この世界の摂理として、人間の存在が欠かせなかったのだ。
厳密に言えば、人間が生まれ続けなくてはいけなかった。
この世界は正の力と負の力が打ち消しあっているために存在できている。
それぞれ正の力は人間が生まれるときに、負の力は魔族が生まれるときに生み出される。
また、その力は定量的なものではなく、人間:魔族の存在比によって左右される。
例えば人間:魔族が1:3でいるとしたら、人間が一人生まれるときの正の力は魔族が一人生まれる負の力の3倍になる。
しかし、俺の世界のように人間が全部滅んでしまっては話が別だ。
そうなってしまった世界は負の力のみが生み出され続け、世界は負の力へと傾く。
その結果、それに耐えられなくなった世界は滅亡するというわけだ。
これは魔族側が滅んでも同じことなんだろう。
それを知ったのは、というか、そういう真理に行きついたのはつい最近のことだ。
それまでの俺はたとえ俺になついてきた人間の幼児であろうが、「せめて子供だけでも」と親が先に犠牲になった子供だろうが、ちょうど赤子の手を捻るように無残に殺してきた。
それが魔族の永遠の平和になるだろうと、ひいては俺が殺してきた、別に輪廻転生を信じているわけではないが世界の摂理としてはあり得る話であるから、人間たちがまた転生して魔族側に生まれた時の幸福になるだろうと思ってきた。
俺はこの悲しい種族戦争を終わらせれば俺に脈々と受け継がれてきた悲しみやら憎しみが救われると本気で思っていたのだ。
いや、それだけではない。
俺はこの世界に生まれる未来の世代の恒久的な平和がかなえられるとも思っていた。
だが、それは違ったようだ。
勘違いだったようだ。
俺のやってきたことは間違いだったようだ。
これだったらあいつらの言うとおりに勇者を殺さなければよかったかもしれない。
あいつが殺される直前に言ってきた「俺とお前は種族さえ同じだったら最高の友達になれたかもな」という言葉に「今からでもなれるさ」と力強く答えてやったらこの世界はどうなっていただろう。
これだったらあいつらの言うとおりに勇者を殺したのち、全人類側の拠点をつぶさなければよかったかもしれない。
唯一魔族と人間が共存していた村、そこにいた人間どもは少なくとも俺たちを恨んではいなかった。
恨みは恨みしか生まないことを悟っていたのだろう。
そこを滅亡させずにそこの人間と共に生きるようにしたらこの世界はどうなっていただろう。
しかし、今悔いたって過去はどうにもならんのだろう。
いや、そんなこともとうの昔に分かっているさ。
ただ、俺のような悪党にはこうやっていろいろ後悔しながら死ぬっていうのがお似合いなんだろう。
世界の破滅まであと少しとなり、自殺者であふれている魔王城で一人寂しくそんなことを思うのであった。
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