116.
「おはようございます! 今日は安全実践研究です! 詳しくは
朝礼が始まるや否や、野中さんは多井田さんを指名した。どうやら他に連絡事項が無いらしい。
「今日の朝礼後、この後すぐに第二棟の丁番ライン集合でお願いします。そこでチームごとに顔合わせして実践に入っていきます。持ち物は……バインダーとかカメラ持ってる人は持っていくと良いかもです」
「報告会はいつなんすか?」
「それがなぁ……」
多井田さんは顔をしかめ、言い辛そうにそれを言った。
「今週の金曜日」
「…………はい?」
「あと三日しかない」
「……マジすか」
思ったより短納期だ……。品質実践研究の時は報告会までもっと時間があったのに……!
「いやぁ、俺も来週の火曜日とかにしたかったんですけどね、報告会。工場長のスケジュールの都合で金曜日しかなかったんですよ」
「それはしゃあねぇな……。三日で何とかしようぜ」
「うわぁ、ヤバイっすね……普通に」
報告会があるだけで緊張するのに、さらに短納期だなんて。
「とにかく! 決まったからにはやるしかないので、皆さんご協力お願いします!」
朝礼が終わり、四人揃って第二棟へと向かう。もちろんカメラとバインダーも持参した。
既に何人かの人がラインの周りに集まっている。
「あ、
「双葉さん、おはよう。早いね」
「だって金曜日が報告会なんでしょ? ヤバくない?」
同じ話を聞いたようで双葉さんの顔には焦りが見えた。やっぱり三日は短すぎる。
「前に少し話したけど、今回は汐見くんも参加するから」
「おはようございます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
「すみませーん! ホワイトボード前に集合お願いします!」
多井田さんの声が聞こえ、急いでホワイトボード前に向かう。辺りを見渡すと前回の実践よりかなり多い人数が揃っている。
「挨拶しまーす。気をつけェ! 礼ィ!」
品質実践研究と同じように挨拶で始まり、挨拶で終わる。これは実践研究全て共通らしい。
「先に日程について話します。今週の金曜日が報告会です」
「キツイだろ、その日程」
「終わらないって……」
まだ報告会の日時を知らなかった人もいたみたいで、非難の声が上がる。それでも多井田さんは苦い顔で言葉を続ける。
「かなり日数が少ないですが、やるしかありません! みなさんご協力お願いします!」
「三日もあれば大丈夫だよ! なあ?」
多井田さんをフォローするように野中さんも声を張り上げる。
「そりゃあ俺もいるし、余裕だよなぁ!」
続いて
「ありがとうございます。次にチームについて説明します。今回は年代別で別れようと思います。ここに印刷したチーム表があるので参照ください」
どれどれとみんなが一斉に覗き込む。
多井田さんが話していた通り、三チームに分かれるようだ。
私はもちろん若手チーム。どのチームに入るか迷っていた
「おいおい、なんで俺がジジイ組なんだ!」
「黒部さんはジジイっすよ」
「野中とそう変わらんだろ」
「変わりますよ。十以上離れてますし。まあ、このチーム割り考えたのは多井田ですけどね」
「なんでそこで俺の名前出したんですか⁉」
野中さんと黒部さんは楽しそうにチーム表を見て騒いでいる。同じようにオッサンだ、ジジイだという声が聞こえる。
対して、若手チームは……。
「また一緒だね、藤代さん」
「藤代さん! またご一緒出来て嬉しいです!」
「藤代さんモテモテじゃないですかぁ。私のラインで実践するんだし、私にも構ってくださいよ」
うーん……なんだこれ?
「藤代さん」
「あ、山木さん」
私の周りに集まる人をかき分けるようにして山木さんが声をかけてきた。
助かる。ちょっと収拾つかなくなっていたから、ものすごく助かる。
「多井田さんがチームのリーダー決めろってさ」
「一番年上だし、山木さんで良いんじゃないですか?」
「俺でも良いけど……これだけ藤代さんを慕う人たちが集まってるなら、藤代さんがリーダーのほうが良くないか?」
「え……」
そんな急に……。
てっきり山木さんか
「い、いや。やっぱり年功序列というか……」
「多井田さん! 若手チームのリーダーは藤代さんでも良いですか?」
「ん? 良いよ。松野と山木がそれで良いなら」
抗議の声が届くことも無く、いつの間にかホワイトボードのリーダー名には私の名前が書かれている。
嘘でしょ……安全実践研究自体、初参加なのに……!
「大丈夫だって。俺と松野がいるから、フォローするって」
「藤代さんがリーダーなんですか! それなら私、頑張りますよ!」
「北山ァ! お前はいつも——」
本人である私を取り残して、周りだけが盛り上がっている。
大丈夫かな、これ……。
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