63.
品質実践研究会が終わり、お昼休憩の時間になった。
報告会が休憩時間ギリギリまで食い込むかと思ったが、野中さんの見事なタイムキープにより、時間通り休憩に入ることが出来る。
野中さんや
「
「はぁ……緊張した……」
ベンチに座るなり、大きなため息。私もそれに倣い、体の力を抜いた。
「緊張したね。しばらく報告会やりたくない……」
「って言っても、またすぐあるけどね。安全実践研究が」
そういえばさっき工場長が言っていた。もうすぐ安全実践研究がある、と。
「それって私も参加するの?」
「するんじゃない? いつも製造課は改善チーム主体で実践してる気がする」
もちろん私は今まで参加したことがない。ただ、一度だけ。自分のラインで実践が行われ、報告会の様子を遠目で見たことがある。
確かその時も、今日の報告会とほとんど同じメンバーが見に来ていたはずだ。
「双葉さんは? また一緒にやるのかな?」
「どうだろう……。製造課と合同で実践するのって何気に今回が初だったし……。野中さんと黒部さん次第じゃないかな。あの二人がこういう実践系の担当だから」
「そっか……。明日から双葉さんと一緒に仕事しなくなるのはなんだか寂しいね」
「ね。業務中断カードのルール決めくらいかもしれない。また品証課と製造課で何かやりたいね」
ここ一週間は双葉さんとずっと一緒にいた。最初は上手く話せるか不安だったけれど、双葉さんは思ったより話しやすくて良い人だった。
私の知らないことを教えてくれるし、一緒にいて楽しいし。また双葉さんと仕事したい。
「双葉さんは……今日の午後は何するの? 管理棟にずっといるの?」
「そうかも。自分の席で通常業務の予定だね。藤代さんは?」
「私は……分かんない。まだ改善チームになったばかりで通常業務が分からなくて」
「そっかぁ。まだ一週間くらいだもんね、異動してから」
まだ一週間。私が裏板ラインを離れてから一週間しか経っていない。カレンダーを見ても間違いない。なのに、改善チームになってから随分と長い時間が経ったような。そんな不思議な感覚。
「変な感じ。まだ慣れてないはずなのに、馴染んできたというか……」
「分かる。藤代さん、馴染んでるよ。改善チームに」
「本当?」
「傍から見てて思うもん。四人とも仲良さそうだし」
「仲良い……のかな?」
三人が仲が良いのは知っている。前になんでそんなに仲が良いのか、と聞いたことがあるくらいだ。
でも私は……あの三人と仲が良いと言えるのか。何故、双葉さんがそう感じたのか私には疑問だ。
「うーん……大事にされてるなぁ、とは思うよ」
「……私が?」
「だって野中さんが実践前に言ってたよ。藤代さんは初めてだから優しく教えてあげてって。残業になりそうだったら俺がやるから言ってって。まだ異動したばかりの藤代さんには残業させたくないから」
「なにそれ、知らない。聞いてない……!」
「羨ましいよ。あんなに部下を大事にする人、なかなかいない」
私が知らないところでそんなことを言っていたなんて……!
実践研究中、ずっと定時だったからこれが普通なのかと思っていた。改善して、時間になったら帰る。それで良いのかと思っていた。だけど……。
私が帰った日、野中さんが実は残業していたかもしれないなんて。どうしよう、嫌だ。それは嫌だ。
「やだな……」
思わず声が漏れる。
大事にしてくれるのはありがたいけど、これは仕事なんだから。頼りにされなくても……最低限、自分の仕事はこなしたい。
「真面目だね、藤代さんは」
「だって私のせいで野中さんが残業するのは……納得いかない」
「焦らなくても大丈夫だよ。今回の実践で野中さんも藤代さんのことがそれなりに分かっただろうし。これからは
……だと良いけど。
今度からは帰る前に仕事が残っていないか確認しよう。
「あ、休憩終わる」
チャイムが鳴り、急いで事務所へと戻る。
品質実践はもう終わった。次は何をすれば良いんだろう。
「はい、昼礼始めます。まずは品質実践研究、お疲れ様でした!」
改善チームの昼礼が始まる。もう実践は終わったのだから、午後から何をするか聞かないと。
「えー……午後からなんですが。みんな、会議棟に集まれる?」
「この後すぐですか? 俺は良いですけど」
「俺も良いですよ。急ぎの用事ないし」
「藤代さんも良い?」
「はい」
なんだろう。全員で打ち合わせる内容なのかな。もう安全実践の話をするとか……?
「それが終わってから各々の仕事に戻ってもらう感じで。……あ、次回の安全実践はまた多井田が主幹な」
「分かりました。また詳細決めたら連絡します」
さらりと安全実践への参加が告げられる。品質実践よりは何をするか分かっているから安心だ。
「じゃあそんな感じで。午後からもお願いします!」
昼礼が終わり、全員で会議棟へと向かう。小会議室Bを予約しているらしい。相変わらず野中さんは準備が良い。
「適当に座って」
一番出入口に近い席に座る。向かいに松野さん、隣に多井田さんが座っている。
私から見て斜めにパソコンを持ってきた野中さんが座る。そこは所謂、司会席というヤツだ。
野中さんはパソコンをプロジェクターに繋ぎ、何かを映し出そうとしている。
何をこれから話すのか。私たちは何も聞かされていない。多井田さんも松野さんも、ソワソワと野中さんが話し始めるのを待った。
「よっしゃ、繋がった。じゃあこれから……改善チームの今後について話します」
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