33.
「ほんっっとごめん!」
現場に着くなり謝られた。
「いや、全然。そんなに謝らなくても」
「自分から誘っておいて勝手に酔いつぶれて……はぁ……」
九時になる少し前に現場に着くと品質保証課のメンバーは先に着いていた。もちろんその中には双葉さんもいる。
おはよう、と声をかけると目を見開き、平謝りされた。
居酒屋を出てからいろいろありすぎて奢ったことすら忘れていたくらいなんだけど、双葉さんは金曜日のことを気にしてかなり落ち込んでいるみたいだ。
「いいよ、気にしてない」
「そう言ってもらえると本当に救われる……あ、お金!
「先輩の奢りだから気にしないで」
「ええ……申し訳なさ過ぎて辛い……ありがと」
それよりあの後は大丈夫だったんだろうか、かなりの量を飲んでいたけど。
私は飲むと次の日に必ず頭痛がするからそっちのほうが心配になる。
「二日酔いとか大丈夫だった?」
「それは大丈夫。私、飲みすぎても次の日には持ち越さないタイプだから」
「……あんなに酔ってたのに?」
「あはは……。あ、そうだ。私、酔っぱらって
「失礼なことは言われてない……けど、酔うとスキンシップが激しくなるんだね、双葉さんは」
「……私、やっちゃった?」
「やっちゃったかどうか分からないけど、距離は近かった」
「だから若葉ちゃん、あんなに怒ってたのか……」
ぶつぶつと小声で双葉さんは呟く。時々腰をさすっているけど、腰痛持ちなんだろうか。もし今日、重いものを運ぶことがあれば私がやろう。
「野中チーム集合!」
いつの間にか九時になり、集合がかかった。
話を切り上げ、野中さんが立っている、ホワイトボードの前に向かう。
「前回みんなが挙げてくれた問題点五十五件を多井田チームと比べた結果、何件か被りがありまして。相談した結果、半分はあっちのチームが担当になったので、うちは全部で三十九件です」
言い切って、ホワイトボードの上の方に大きく三十九件、と書かれる。
「で、その中でも優先的にやりたいものが十件あって……」
急ぎ気味に、野中さんはやりたいことを書いていく。
表示剥がれ、養生剥がれ、色見本なし、巻尺の点検の期限切れ。端的に問題点が羅列されていく。
「と、ちょうど目標
三十九件の横に目標十四件と書かれた。
「ストレッチ目標ってなに……?」
「うーん……」
隣にいた双葉さんに聞いてみたが説明が難しいのか、困らせてしまった。
「おい、野中。ストレッチ目標の説明しろって。可愛い部下が困ってんぞ」
聞こえていたらしい、黒部さんが声を張り上げる。
「そうか、
「合ってる合ってる」
野中さんは片言で教科書にでも書いてありそうな言い方をした。
「基礎コースで今後習う時は俺が今言ったみたいな原文を覚えることになると思う。いつも思うけど、ああいう原文って分かりにくいよな。まあ、背伸びした目標って覚えてもらえれば大丈夫かな」
「分かりました。すみません、お時間とらせて……」
「良いって良いって。これからどんどん分からないことは聞いてくれな!」
双葉さんも、と野中さんはにこりと笑う。
改善チームに入ってから聞き慣れない言葉ばかりだ。ビジネス用語というか、工場用語というか。
野中さんは率先してその用語を使う。時々、多井田さんや松野さんですら意味を聞き返している。そのたびに野中さんは覚えてほしいから、と言った。
「…………」
右ポケットに入っていたメモ帳を取り出し、ストレッチ目標とその意味を書き込んだ。これから少しずつ覚えていけたらと思う。
「じゃあ担当割りしていくわ。それぞれ得意不得意が違うから……こんな感じか?」
羅列された十四件の問題点の横に名前が書かれる。
私の担当は三件。養生剥がれ、巻尺、指示書のサイン……。
「はい。今、振り分けた項目の是正を今週の水曜日までにお願いします。と言ってもちょいちょい集合かけるからその時に進捗確認って感じで。やり方が分からなかったらどんどん相談してね」
「もう解散か? 俺、明日は出張行って不在だから今日中に出来るだけ是正するわ」
「え、マジっすか。それは初耳ですね……。なら明日は俺ら三人で集まりますか。次回集合は明日の朝、九時でお願いします」
お土産期待してろよ、なんて言いながら黒部さんは去って行った。出張ってどこに行くんだろう。
「藤代さん、一緒に是正する?」
「双葉さんが良いなら……」
言って、ちらりと野中さんに視線を向ける。
「うん、二人で協力してやってくれると嬉しいな。双葉さん、藤代さんにいろいろ教えてあげてね。俺は自分の担当の分を進めるから何かあったら携帯に電話して」
「分かりました。藤代さん、行こう」
二人並んで歩く。ラインに向かって。
今日と明日、それに明後日。私たちは三日間で十四件の是正をしなければならない。
まずは自分の担当がきちんとの納期に間に合うように。納期未達はご
「じゃあ、藤代さんの担当のものから始めようか」
「うん、お願い」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます