24.

 あの後、急いで着替えを持って戻ってきた彩織はれいさん先に入って、と頑なだった。

 だから仕方なく先にシャワーを浴びた。お客さんだし、本当は先に入ってほしかったんだけど……。

 いつもはお風呂場を出る前に掃除するけど今日は軽く水で流すだけにした。

 分かりやすいようにシャンプーやリンス、ボディソープを並べる。ああ、あと新しいタオルも出さないと。なるべく新しいタオルを選んで洗濯機の上に置いた。


「彩織、お先」

「はーい。じゃあシャワー借りるね」


 自分の着替えを抱えてお風呂場に入って行った。

 彩織いおりがシャワーを浴びている。自分の部屋でなく私の部屋の。なんだか変な気持ちになる。

 ソワソワとして落ち着かないから待ってる間に部屋の掃除をしてしまおうと思う。

 毎日生活していると床に埃が溜まる。別に潔癖症ではないけれど目に見えてしまうと気になるものだ。特に私の部屋はカーペットも何も敷いてないから目立ってしまう。

 しゃがみ込み、軽く拭き取っていく。ここまで目線を下げると今度は隅のほうの埃も気になってくる。これもせっかくだからついでに、と壁際の埃もふき取る。埃だけじゃなく髪の毛も。

 あ、ベッドの下もすごいことになってる。

 せめて手が届くところだけでも、と軽く拭いただけなのにさっきまで真っ白だったペーパータオルの裏が真っ黒になっていた。

 これはまずい、と真っ黒になってしまったものをゴミ箱に捨て、新しいものを取り出す——



「上がったよー。……何してるの?」

「ちょっと掃除を……」

「今?」


 戻ってきた彩織に呆れられてしまった。自分でもどうかと思うぐらい床に密着していたからしょうがないとは思うけど、その残念なものを見る目は止めてほしい。


「ねえ、今なら私の髪、羚さんと同じ匂いがするよ」


 すんすんと自分の髪を鼻に近づけ、嬉しそうに彩織は言う。


「同じシャンプー使ったからね」

「羚さん、前から良い匂いするなーって思ってたんだよね。だから同じ匂いですごく嬉しい」

「自分の匂いってあんまり分からないけど……私ってどんな匂い?」

「ん-……なんか安心する匂い?」

「どんな匂いなの、それ」


 考え込んだわりに抽象的すぎる答えについ笑ってしまう。


「だってなんか安心するんだもん。羚さんといるとつい眠くなっちゃう」

「とりあえず臭くないなら良かったよ」

「全然そんなことない! ずっと嗅いでいたいくらい良い匂い!」

「それは流石にちょっと引くかも……」


 前のめりすぎる彩織に苦笑いを返す。本当に、昨日今日で距離が近くなった気がする。

 まるで姉妹のような距離感。私はひとりっ子だからピンとこないけど、妹がいたらこんな感じだったのかな。



「準備できたなら、そろそろ出る?」

「うん! どこのお店行くの?」

「日用品と食料品買いたいから……駅前のルクスウォークにしようか。上大沢駅前の」

「ルクスかぁ、最近行ってないや」


 上大沢駅の近くにはショッピングモールがある。しかも駅直通のブリッジがあるから行きやすい。

 昔から高校生の学校帰りの寄り道と言えばルクスウォークだった。


水積みずみ駅から電車で行く?」

「うーん、どうしようかな。たくさん買うだろうし、車にしよう?」


 休日用のバッグにスマホと財布を入れ、玄関の扉を開けた。

 日差しが眩しい。六月にしては気温が高く、雲一つない快晴だった。


「こっち」


 先導して駐車場を歩く。まだ時間が早いからか、ほとんどの車が停まったままだった。

 ガチャッ。

 スイッチを押し、ロックを解除した。


「どうぞ」


 助手席のドアを開け、彩織を待った。


「ありがとう。なんか執事さんみたい」

「ドアを開けるのが?」

「だってドア開けてもらうのなんてなかなかないじゃん。それに格好良かったし」

「そうかなぁ……」


 黒光りした高級車だったらそう思うかもしれないけど私の車はどこにでもあるシルバーの軽自動車だ。これではいくら執事みたいなことをしても格好がつかない。

 彩織がシートに座ったのを確認してドアを閉める。

 自分のバッグは後部席に乗せてから運転席に座った。


「じゃあ行こうか」

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