>//°0=3:/4/ レクス・タリオニス



「ぷはっ、くそっ」


 敵の術中にまんまと嵌められた事に憤りを感じていたマスト。もっと周りをよく確認するべきだった、潤とガルカに頼らない作戦を考えるべきだった。だがそんなことが吹っ飛ぶほどの衝撃は目の前にある。


 グロリア・ベルファング。彼が敵として彼の前にたちはだかることをガルカから聞き、予め知っていたマストだったがそれでも彼の姿を目の当たりにするとどうしても一瞬怯んでしまった。


「グロリア……」


「お前のようなクソに名を呼ばれる筋合いなど無い」


 思わず漏らしたマストの声を地獄耳が聞き取っていた。グロリアはひたすらに彼を殺す手段を行使する。水の竜巻は部屋の中に充満し逃げ場が無くなっていく。


 どこか退路があるはずと藻掻き続けると先刻部下が突き抜けていった壁に空けられた穴があった。滝のような勢いで流れ落ちる水と共にマストはそこから抜け出す。


 一方、ルドルフとモニカは砂嵐の男と対峙していた。


「自分が死ぬかもしれないのに俺の攻撃の邪魔などよくしたな、そこまでして死に急ぎたいのか?」


「死にたくてマストさんを守った訳じゃないですから」


 モニカは反論してみせた。華奢な少女がとても大きい存在に見えてきたルドルフは決して彼女の邪魔にはならないようにと支援に徹する姿勢を見せる。


「横の男は俺達と同じ人間か。どうだ俺達の仲間になってみないか?」


 その言葉を聞いた時、ルドルフは戦場に赴いてから常々抱いていた疑問を男にぶつけた。


「お前らの理論は破綻している! 魔術師を憎み魔術師を根絶やしにするために今や国家規模の組織を立ち上げた筈なのに、何故魔術師と……お前達が憎む存在と同じ力を作り上げた!?」


「フッ、お前は馬鹿か?」


 そんな一言でルドルフの言葉は一蹴された。


「目には目をというやつだ。魔術師が力のない俺達人間を殺したんだ、俺達にだって魔術のような力で魔術師を殺す権利がある」


「そんなの理由に……」


「なるんだよ、この世界ではな。狂気で満たされた人間は自分のやっていることに気づかない、初めてイクスを作ったヤツらもきっとこれは魔術ではないと思い込みながらその力に惚れ込んでいたことだろう」


 反論は殺された。男の一言一句はただの感想に過ぎない。だがそれはまるでブレイジスの意志のような気がしてならない。


「詭弁だ、それが道理としてまかり通ると思うな!」


「俺はそんなこと思っちゃいないさ、ただヤツらブレイジスがどう考えているのかさえ分からないから俺も奴につくことにした訳だ」


「レブサーブが正しいと、本気でそう思っているのか!自分の利益の為に他人を殺し、戦争を長引かせたあの男を!」


「過去の所業はどうでもいい、大切なのは未来に向けてどうするかだろう? 俺達は誰も予想のつかない新たな未来を築くんだ」


 歯を食いしばる。この男には、レブサーブの下へ集まる者達はどんな言葉も届かないことをルドルフは悟る。和解しようという気はルドルフ自身にも毛頭無いが、何かが起きれば万々歳だと交渉を続けていたがついに決裂したような気分になっていた。

 横に立つモニカはただその会話に肥大化し過ぎた意志が介在していることを理解していた。


 彼女の顔を一度見て同じ気持ちだということを再確認したルドルフは男に宣言してみせた。


「レブサーブやお前らが何をしようとしているかは分からない。だが俺にだって、俺達にだって未来を選ぶ権利がある!そして俺達はお前らの未来を否定する!」


「そうかそうか」


 ルドルフは銃器を構え、モニカは魔術を発動させる。


「くらえええええ!!!」


「スターセット・カペラ!」


「じゃあ死んでもらうか」



 指を鳴らす音が聞こえた。途端、彼らが居座っていた建物やその周りの建築物は轟音と共に爆発した。大通りに沿った建造物は同時に爆破され、その規模は百メートルほどにも及んだ。ルドルフが発砲した弾丸はその突然の揺れによって男に当たることはなく、モニカの魔術は発動する間すらなかった。


「ハハハ、壮観壮観。これだけの規模を一度に爆発させられるのはお前の特権だな」


 爆破されていない建物の屋根に佇む男の横にもう一人、華奢な男が音もなく現れた。


「僕のイクスは発火までがイクスですから。起爆装置に僕の油を組み込めばそれはもう僕のイクスの一部ですからね。それにしても溯百都さくもとさん、随分とお話されてたようですが」


「ああ、よく頭の回りそうな奴がいてな。こいつらの中で一番いいかもしれん」


「それはそれは……」


 ルドルフとモニカ諸共吹き飛ばした張本人であろうその男、ハイヴ・クルーリヤは自らが溯百都と呼んだ男に返答する。


「彼のいい奴隷になりそうですね」


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