>//°0=3:/3/ パンタシア
「潤、ガルカ!」
マストはクリスティーネの攻撃によって吹き飛ばされていった二人の名を呼び続ける。モニカとルドルフ、そしてマストの部下たちはその場に取り残されていた。
「通信も繋がりません、どうしますか?」
「とりあえず嵐が消えていった方向へ向かってはいるがこの広い土地だ、簡単に見つかるわけもないか」
潤とガルカが居なければどうにかなってしまいそうと言う訳ではなかったが、彼らと合流しておけば確実な勝利を得ることが出来るとも踏んでいる。
「あっちに敵がいるのは確かだ、行くしか……」
空気が変わったのを肌で感じた。ザラついた風と砂埃が多くなっていくとマスト以外の人間も続々とその違和感に気付いていく。
「なにか来るぞ」
全員にその脅威を伝えるとそれぞれ戦闘の準備をする。この状況下で純粋な魔術を繰り出せるのはモニカしかいない。彼女を頼ってしまう事にはなるが、それでも足手まといにはならない様にとマストはどこからともなくショットガンを二丁抜く。
「周囲の警戒を怠るな!」
部下に指示をする。皆それぞれ建物の中へと入り外から自分の身体が見えない角度へ隠れ、来たる何かに備える。無線からは全員の声が聞こえてくる。ルドルフはモニカと同じ家屋へと入り窓から確認する。
「どこから来るんだ……?」
緊張と不安でいっぱいだったが、横にいるのはモニカだ。リンジーとの約束を見守っていたであろう彼女がその約束を覚えているかどうかはこの際どうでもよかった。そこに居るだけでルドルフの士気は一定を保っていた。
だが、その活力も長くはもたない。
「数の暴力って言葉を知っているか?」
覚えの無い男の声が聞こえてくる。マストは窓から乗り出そうとする部下に待機の命令を下す。
「集団がひとつのものに圧倒的な賛同を送り、自分達が絶対的な正義だと示す事で反対意見を封殺するって意味だ。そしてその言葉が最も正しく使われる時は……」
気持ちの悪い風が吹く。砂利が混じっているような不快感で一瞬だけ目を閉じたマストだったが、再び同じ景色を見ようとした時、大きな声を出す。
「目の前だッ!」
「今だ」
マストの部下は砂嵐を眼前で食らった。建物の壁をいとも簡単に突き破りまだ見ぬ場所へと飛ばされた部下を想う暇は今のマストには無かった。
「お前らの眼の管理権は全部俺のものだ、誰も俺を視認出来ないし、誰もお仲間が死んだことに気づいていない」
そんなことはない。マストはたった今この目で仲間が死んでいくのを見た、はずなのに。周囲を見渡し無線での通信を図る。
「生存者! 生存者はこの通信に反応しろ!」
「自分とモニカは!」
直後に反応したのはルドルフ。その後に別の建物で待ち伏せていた二人が反応するが数が合わない。
マストが連れてきた部下の人数は六人だった。
「三人は既に俺達のものだ」
「はっ━━━━━━!」
「遅い」
視界の悪い中マストの前に突如として現れたのは、恐らくこの砂嵐を起こし彼の部下四人を一網打尽にした男。マストが銃を向ける暇すら与えず男は彼を殺したように思われた。
「スターセット・プロキオン!」
モニカが放った流星は窓を貫通し大通りを横切るようにして敵の攻撃よりも速く男の身体に到達しようとしていた。
世界が遅くなるような錯覚さえ味わう。男は振り向きモニカの攻撃を防ぐ姿勢をとると砂嵐が彼の目の前に立ちはだかる。
「ふん!」
今だと言わんばかりにマストは銃を向ける。人を殺す覚悟などとうの昔に出来ている彼は躊躇うことなく引き金を引いた。
「その魔術、お前がマスト・ディバイドだな」
「なんだっ!?」
銃弾は男の横をかすめる。その実、マストの足元は水が渦巻き歪まされていた。足を取られて滑らせるようにして狙いを外したマストは激流に押し込まれる。
「ぐはッ!」
「マストさん!」
遠くからルドルフとモニカの声が聞こえる。耳に水が入り込み視界がぼやけていく。室内にあった椅子や机はマストと同じように壁際に追い込まれていき、彼の邪魔になっていた。
なんとか息継ぎをしようと水面に上がろうとするが、その企みに敵は気づいていた。
「お前は俺が殺す、この身を賭けてでも殺す。それが俺の使命だ!」
先程目の前にいた男とは別の、名も知らぬ人間に殺意を抱かれているマスト、その行為自体には慣れているがどうも歪んだ視界の中で彼はかつての仲間を思い出す。
その男はグルニア・ベルファングによく似ていると。
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