017. エントリー
数時間の運転を経てブラック・ハンターズ一行は旧シカゴへと入り、ダグラスが確認された場所へ向かっていた。
かつて犯罪都市としての姿が見え隠れしていた都市は一変、猫を被らなくても良い街となっていった。悪人からの逃亡として他の州への移住が絶えず発生し、マフィアなどしか残らなくなってしまった。
そしてそのマフィアはここ二年で激減、今現在ここに住み着いているのは行き場を失った人間と漁りが得意な動物たち。減少した理由は様々だが再びこの街にも活気溢れる時が来るのは間違いない。
寝ていたモニカをルドルフが叩き起こし、装備を持って目的地まで走る。十キロは優に超える携行品を軽々と持ち歩くルドルフとは対照的に、左右に揺れ動き体力を消耗しているのが目に見えて分かるモニカ。彼女が抱える重量はおよそルドルフの半分だった。
十九の青年たちを尻目に二十歳になった二人は前へと進み続ける。モニカの弱音とルドルフの叱咤が聞こえてくるが、構う暇はなかった。
一見どこにでもあるマンションの一室に入ってく様子を見られたその姿は左手で杖をついた、整った髭の老人。一般的な七十代と言っても差し支えはないだろう。
そんな彼の危険性がいまいち理解できてないモニカは泣き言を言い続けてようやく着いたその部屋の扉の前で止まる。下を見続けながら走っていたせいで彼女の前で急に立ち止まったルドルフの背中に頭をぶつけるが、彼自身は気にしている様子もなかった。
頭に疑問を浮かべながらモニカは三人に問いかける。
「この部屋に犯人がいるんですかぁ?」
「ああ」
構う余裕がない潤が辛うじて返事をする。何も理解していないようにも見えるモニカをフォローするようにガルカが彼の言葉に続けた。
「ここがダグラス・ダンヴァーズが確認された部屋。モニカ、不用意にドアに近づかないでね」
その言葉で察したのかガルカの注意で無言で首を縦に激しく振る。
四階建てのマンションの一〇四号室。脇の道路から一番遠い角の部屋の前。四人の特殊部隊員が壁に張り付く。潤が左手の動作で指示を出す。すると命令を受けたルドルフはバッグから道具を取りだし、ドアノブと
二〇三四年にもなれば小型化されたブリーチングツールは鉄をも焼き切る。七センチ×十六センチの火薬と鋼の塊を遠隔で操作出来る装備を携行していたルドルフのバッグの中身はこのようなもので溢れている。
古き時代に置いていかれず便利な道具を使用する。全くもって素晴らしいことであると潤も感じているが、いかんせん自分が以前配属していた戦線にはそのような目新しい武器が本部から届くことは無かった。
所謂、近未来的なツールを戦場で見ることは訓練校時代にしか無く、二年前戦い続けた場所の影響もあって今でも最新の装備を使うことがない潤にとって、ルドルフの姿は新鮮だった。
あらかじめ部屋の見取り図とドアの形状を資料で確認していたお陰もあって効率的に破壊できる箇所に三つ設置しドアから離れる。
ルドルフが遠隔操作を左前腕に取り付けた液晶で行い、長方形の鉄から火花が吹く。
「ダグラスがいたら即確保、いなかったら部屋を捜索だ」
全員が潤の確認に無言で頷く。火花が出切ったのと同時に終了を合図するウインドウがルドルフのモニターに
潤が人差し指を立てる。ルドルフがライフルを取りだし、ガルカがナイフとハンドガンを持つ。モニカも覚束無いながらも拳銃を両手で大事に抱える。
中指を立てる。潤もまたサブマシンガンを右手に構えの態勢をとる。モニカが神への祈りを捧げた。
親指を立てる。ブラック・ハンターズ隊長がドアを前方に蹴飛ばす。若干埃が舞う玄関から四人が突入する。
各部屋に一斉に入り込み銃口をいるはずのダグラス・ダンヴァーズに向ける。
視認されたあと外に出た形跡の無い彼はその部屋のどこかにいるはず。
だがその部屋のどこを見ても彼の姿は無かった。
それどころかもぬけの殻。部屋の中は元科学者の男とは思えないほど小綺麗だった。
「てっきり資料で山積みだと思ったが、そうでも無いんだな」
潤が小さい声で呟く。その言葉に反応するものはおらず部屋に残響する。どこをどう探そうが見つからないダグラスに潤もガルカも業を煮やす。別の部屋を見ていたモニカとダグラスに集合をかける。
リビングにて立ちながら会話を交わす姿は軍人然とした格好だった。たった一人を除いて。
「どういうことだよ」
「分からない、でもここにしかいないはず」
「軍が自分たちを騙そうてしている……は考えすぎですよね」
軍に一定の不信感を抱くルドルフだからこそ辿り着いた発想だが、ここまで来るかそれを疑うしか三人には出来ない。
銃を構えることをやめた三人に、持つことすらやめたモニカが廊下から喋りながら歩いてくる。
「これからどうするんですか~?」
そんな彼女の言葉に反応するように三人はモニカに視線を向ける。すると彼女は暴露してしてしまう、が。
「実を言うと私まだほんのちょっとだけねむっ!!」
何も無いところで転んでしまった。
「いったたた……」
カーペットをずらし、額からフローリングに当たりに行った彼女の豪快な転倒に三者三様の反応を示す。
「フン」
「大丈夫?」
「おいおい……ん?」
ルドルフが鼻で笑いガルカが心配する中、潤はモニカに寄る自分の足音に着目した。
なるほどな、とぼやきつつも三人に聞こえる声量で話す。
「みんな見てくれ」
おもむろに潤がカーペットを全て剥がし現れたのは地下へと続く階段がある扉だった。
「恐らく、ここにヤツがいる」
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