002. オールド・バディ




 その男、イーサン・グリーンフィールドが殺されたことを二人が教えられたのは彼が亡くなってから四日後、本国に帰ってからの事だった。


 その名が降りてからというもの、彼らは警察とは別の視点でイーサンの死因や身辺調査、犯人の追求を行っていた。


 国連本国では旧アメリカの中央情報局CIAを基に結成された国連情報局UIAが存在している。旧体制では様々な噂がまことしやかに囁かれていたが、新たに外面を変えてもその評判はさほど変わりはしない。


 そんな情報局と潤たちは水面下で協力しつつ調査を続けていたが、そう簡単に見つかる訳でもなかった。


 二〇三四年、犯行現場の指紋等は何時いつ、どんな時に付けられたものなのかまで判断出来るが、事件が発生した当日、被害者以外の指紋や痕跡は彼が亡くなった際にいた自宅では発見されず、その日は仕事先の部下達も目立った動きをしていなかった。


 だが、ここまで足取りが掴めないのは珍しいことではない。


「また同じ手口か」


 同じ手口、被害者は手足の爪を全て剥がされた上に腹部をナイフで掻き回された痕、最後には首を削いだこの手口はこれが初めてではない。


「この犯行は同一人物がやってるのかな」


 潤とガルカは本部の一室にいた。同様の殺害は今回で計十二件、警察も対処を行いたい所だが現場に残っている指紋は国連加盟国内の人間のものでは無い。


 被害者の共通点も存在せず、社会の表面を下支えしている者からどんなに汚い手を使っても金を稼ごうとする者、そして近年政界へ進出した者と役職も年齢も一致しない。


「恐らくな、だが足取りが掴めない」


 革命軍、ブレイジスの手先か戦争とは縁もゆかりもない無国籍の人間か。上層部も潤たち自身も反射的に前者だと断定した上で捜査を行っていた為に犯人は不明のままだった。


 ノックスから命令を受け、当たり前のように受諾したからこそ、彼の顔に泥を塗るような恥ずかしい真似は見せていけない。軍人として当たり前の矜恃を身に付けている潤はこの事件の解明を諦めることなど出来なかった。


「どうしたもんかな……」


 捜査が前に進まないまま一週間、頭を抱える潤だったがそこに来客が飛び込んでくる。


 中央情報局の人間がノックして何も言わずにぞろぞろと入ってくる。潤はなんだなんだと言うような目をしつつ大方の予想は出来ていた。


「随分と大人数だ、何か分かったことでも?」


 スーツ姿の人間が八人ほど立ち尽くしていたがそのうちの一人が手に携えていたファイルを潤の机にそっと置く。それを手に取り開く前に潤は彼らにそのフォイルの意義を問う。


「これは?」


 何も言われずに出されたせいで潤は中身の把握すら出来ていない。ガルカに至っては目の前にいた黒服の人間達に警戒すらしていた。


「それに関しては俺の口から話す」


 部屋の出入り口を塞ぐように横一列で並んでいた彼らの奥からもう一人男が現れる。黒服たちが横に掃き出入り口が見えるようになるとそこには見覚えのある人物がやってきていた。


「やあ潤、ガルカ」


 右眼に眼帯を付けた男が部屋へ入ってくる。二人はその姿を見て少しばかり驚いた。


「ブラント中尉!」


「もう中尉じゃないがな」


 少し笑顔を見せた彼は二人に注釈をつける。売り言葉に買い言葉、潤も辺りを見渡してゲレオンに言い返してみせた。


「じゃあこの人らの態度も柔らかくして下さい」


 すこし微笑むゲレオンから溢れる懐かしさに、知り合いは互いしかいなかった環境に身を置いていたガルカと潤は安心感を覚えた。


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