043. 輝ける脅威
あの会話を交わしたあともやはり戦いは続いていた。
「おりゃあ!」
ニンバスがお得意の炎の魔術、アグニで敵を殴り業火に焼き払っている中、シルライトとマストも彼の後ろで敵を倒し続けていた。
あらかた倒し、次の敵の波が来るまでの間にニンバスは二人に提案をする。
「シル、マスト。俺はこれから先に進んで前線をあげようと思う。お前らはここで残存する敵と俺が取りこぼした奴の殲滅にあたってくれ」
「分かりました」「了解」とすぐさまその提案をのみ、ニンバスはたった一人で敵基地がある方面へ向かった。
心配などは無かった。彼なら大丈夫という確信が二人にはあるほど、ニンバスはタフで骨太だった。
そして二人も互いに連携の取れるものだと分かっていた上で了承した。
「シル、じゃあ早急にここで身を潜めてる敵を……」
発言を言い終える前にシルライトが声を荒らげる。
「マスト!!」
シルライトはマストにタックルをかますかのように突撃し、掴んだまますぐさま塹壕の中に入る。
二人がいた場所には空は曇りであるにも関わらず、光が射し込んだ。
危険を察知したシルライトはすぐに勘づく。
「あれがイクス使いだ、まともに見るのはこれが初めてだろ」
「ああ……」
背中に火傷を負った時、まともにあのスナイパーを見ることができなかった経験をした彼にとっては今、何が起きているかなど大した問題ではなかった。
歩いてきた男は光を放った正体、黒井健吾だった。
「どうも」
軽く挨拶をしてきた彼にシルライトは挑発を仕掛けてみせる。
「こうやって面と向かって話すのは初めてか? アタシはグレイスさんと一緒にアンタの上司と対峙したからな」
「その説は世話になったな、シルライト・ブラースカ」
上から目線のその態度に彼女は敵でありながら苛立っていた。その思いを本人にぶつけてみせる。
「随分と調子乗ってるじゃねえか、見たところアタシよりも年下だろ?上のモンには敬意を払わなきゃな」
「俺が敬意を払うのは仲間だけだ」
その苛立ちを軽くあしらう彼を見てシルライトは眉間にしわを寄せる。それを見たマストは彼女の肩に手を置き、落ち着かせるとともにその煽りあいに参加した。
「じゃあ、無理矢理にでも払わせるよ」
「やってみるんだな」
その言葉が発せられた瞬間に三人はすぐさま距離をとりあった。
自分たちと同じようにどこかへ隠れたあの男を確認すると二人は急ピッチで作戦を立てようとする。
「どうするんだよ、あんなこと言った手前今更謝っても殺してくるぞ!?」
「元より謝る気なんてないし、あいつも最初から殺す気だ。そしてシル、君もやる気満々だろ?」
昔の彼とは少し違っていた、誰かに明らかに影響を受けその者を真似たような口調になっているマストに気づいたシルライト。それを見兼ねてか口をにやけさせると座り込んでいた彼女は立ち上がり健吾に立ち向かう意志を見せる。
「上等だぜ、やってやらあ!」
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そこからはマストが身を乗り出し、健吾めがけてフルフィルメントで持ちゆる銃を使い攻撃していた。
自動小銃で攻撃しては健吾に接近し散弾を放つを繰り返していた。
「そろそろこの攻撃にも飽きてきたか?」
三度もこの行為を繰り返しているせいか、効き目が無いように見えた。
「もう少しバリエーションが欲しい所だ」
健吾はそう言うといつの間にかマストの懐に接近して刀を振ろうとしていた。
「なっ!?」
マストは呆気を取られそのままやられようとしていた所にシルライトが割り込む。彼女の持つ鉄槌で彼の攻撃を防いだあとはマストが散弾を彼に向けて撃つ。
「おっと危ない」
健吾は少し余裕を持ってその攻撃をかわしてしまう。攻撃を当てられないまま互いの攻撃が続く。
「くそ、これじゃあスタミナ切れを待つだけだ」
何かいい手がないか模索し続けるわけにも行かない。目の前に脅威が永遠にある限り逃れることは出来ないまま体力を消耗していく。
「おらよ!」
鉄槌を縦に振り下ろすシルライト。それを容易く受け止める健吾はカウンターを仕掛ける。
「胴が甘いぞ!」
隙を見つけて断ち切るも、シルライトもその猛攻に一歩も引かずに対応する。
マストは両手にショットガンを持ち健吾目掛けて放つも、それが当たるはずもなく健吾は余裕さえ見せていた。彼は続けてシルライトに対してゼロ距離で押し合いに持ち込む。
「そのイクスってのは半端ねえな、アタシも欲しいくらいだよ」
「それはそうだろう、次代を制する力は魔術ではなくこの力だからな」
「根拠も無いこと言うんじゃねえよ、馬鹿が」
口の悪さにおいてグレイスにお墨付きを貰うほどの暴言に定評のあるシルライトは彼の言うことに反吐を吐いてみせた。
「分かりきっているだろう、今後この力が量産されればブレイジスの勝利は間違いない」
「その前に決着をつければいいだけの話だろ、簡単なこったぜ!」
シルライトはハンマーを健吾に振り続ける。相手に攻撃させる隙を与えないよう、絶えずこちらが優勢になるよう手を緩めない。
防御に徹するしかない健吾はシルライトの猛攻を防ぎつつも彼女に言い放った。
「何を言うかと思えばそれか。力の差を見せつけなければ分からないなら!」
「迸れ、ミョルニル!」
連撃を一旦やめるとシルライトは鉄槌を上に掲げ、神から恩恵を受けたかのように雷撃が武器に集まる。そのままの勢いを落とさずに雷槌を健吾に振りかざす。
健吾は隙を見つけたかのようにそれを避けるとワンステップで再びシルライトに近づく。大太刀を納刀し、再度その刀を抜く際にはその刃は光り輝いていた。
「ヤマト、目の前の的を共に消そう」
黒井健吾はシルライトめがけてイクスを発動した。
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「大丈夫、大丈夫だシル。落ち着くんだ」
マストはシルライトにそう言い聞かせるが自身は焦っていた。
彼女は健吾のイクス、ヤマトをかわそうと一歩下がりその攻撃を武器で防ごうともしたが健吾の大太刀が先に身体に当たった。
見事に腹部を切られたシルライトは血が溢れ出した。重傷ではなさそうな傷口であることが不幸中の幸いだった。
マストは健吾の攻撃によって吹き飛ばされたシルライトを抱え、彼の目が届かない場所に隠れると自身の魔術、フルフィルメントで収納していた応急処置の道具をシルライトに施す。
与えられた数分程度の時間の全てを使い出来る手は尽くした。彼女が動かなければ死なないようには手当をしたマストは颯爽と健吾の下へ行こうとした。
「待ち、やがれ、マスト」
それを呼び止めたのは他でもないシルライトだった。腹から声の出せない彼女がマストを引き止めると彼はすぐさまシルライトの近くへ寄る。
「どうしたんだシル、動いてはいけないぞ」
「それは分かってるよ、ただアンタが忘れもんをしてることを伝えたくてな」
忘れるようなものも忘れるようなこともない彼にシルライトは自身の傷ついた身体を見下す。
「これじゃアタシゃあ戦えない、ただアタシの意志はアンタに託したい」
「何を言って……」
するとシルライトは左腕を座り込んだ自分の頭と同じ高さまで上げ、小さな声で自分の魔術の名を放つ。
「ミョル、ニル……!!」
気絶しそうな意識かの中でシルライトは左の手のひらに電撃を集めた。マストはそれが忘れ物なのかと疑問を浮かべているような顔を見せる。
「これをアンタの身体にブチ込む」
「……どういうことだ?」
シルライトは集められた電撃をマストの体に入れると言うのだ。何故そんなことをするのか、マストには皆目見当もつかなかった。
「
「無茶苦茶だ」
だが、それがシルライトのアイデンティティであることもマストも、本来ここにいるはずだった"彼"も分かっていた。
「アイツは、アタシみたいに大振りの武器を使う奴は隙を見つけて直ぐにカウンターに出る。そこでコイツを入れたマストが手数で押し切れば絶対にやれる。ああいうのはイレギュラーも想定内とか言いそうだが、内心めっちゃ焦ってるモンなんだよ」
怪我をしているのにその元気さ、力づくだが相手の力量を細かく認識している彼女の見えない繊細さに圧倒されたマストは数秒間言葉が出なかった。
だが、シルライトの話を理解したのか彼女に左手に右手を重ねる素振りを見せる。
「この際出来ることはなんだってやろう、たとえ死んでもあの男を倒す」
「その、意気だぜ」
刹那、マストの身体中に電撃が迸る。マストは叫び声ひとつも挙げず我慢しているようだった。
身体が悲鳴を上げているのがマストは自分で分かっていた。だが、彼が大事と考えていたのはその先にある勝利の二文字だった。
全身が軽くなったような気分に見舞われ、明らかに以前よりも動けるようになっていることを確信したマスト。シルライトの方を向き、決意を固める。
「これで負けたらアリアステラの恥だな」
「はは、そうだ、な……」
シルライトは目を瞑り気絶してしまった。傷こそ浅いが腹を切られ意識の薄れていく中、最後の力を振り絞りマストへ力を託した彼女は満足そうな顔をしていた。
死んではいないか一応脈を測り大丈夫だと分かるとマストは健吾から隠れるのをやめた。
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