第9話 噂
アカデミーに入学して、半年が経った。
校庭の隅には、ここ数日降り続いた雪が堆く集められている。寮から校舎までの道がぬかるみ、ゆっくりとしか歩けない。
(今日はきっと遅くなるんだろうなぁ)
授業開始少し前、ミリアは正門の近くの木立に隠れていた。暫くすると、パタパタと音がして、顔を赤くしながら男が走ってきた。
「遅くなりました」
「大丈夫です。はい、これ」
男に封筒を渡す。中も確認せず男は走り去った。
入学して以来、グレースの課題をやらされている。毎日放課後、正門近くで課題を受け取り、朝届ける。受け取りには、グレース専属の御者が走ってくる。
この儀式が、噂になっているのは知っているが、どうにも出来ない。
「また今朝も、逢引きしてたんですって」
「堂々としたものよね」
「学校はなんで何も言わないの?」
「グレース様がお可哀想」
「ライリー様ぁ、おはようございますぅ」
今日もSクラスに、グレースがやってきた。
ことの起こりは2週間前、
「ミリア、酷いですわ」
Aクラスのグレースが、ずかずかと教室に入ってきた。後ろには、いつもの取り巻きを従えている。
「トマスは私の御者ですのよ。私を送り迎えする為だけに、アカデミーに来ていますの。それなのに・・」
顔を覆って嘘泣きするグレース。
「お可哀想なグレース様」取り巻き1号。
「グレース様を利用するなんて」取り巻き2号。
「恥を知りなさいませ」取り巻き3号。
「このままでは、トマスが首にされてしまいます。文のやり取りに、私を利用するのはやめて下さいませ」
(そう言うことか)
数日前、
何をしているのかと、噂になっていた。直接聞いてくる人もいないし、言えるわけもない。噂を放っておいたら、グレースがやってきたと言うわけだ。
(でも、受け渡しをやめて困るのはグレースだと思うけど?)
黙って見ていると、チラチラと周りを見回すグレース。ライリーを見つけ、パタパタと走り寄る。
「ライリー様ぁ、私どうすれば」
「君は、グレース・オルグレンだね。どうしたの?」
「ミリアが私を利用して、それでお父様に叱られたんですの。なのにミリアは全然話を聞いてくれなくて」
再度嘘泣きをはじめるグレースと、
「ああ、噂になってるあれだよね」側近候補1号。
「取り敢えず落ち着こうか、オルグレン嬢」
「グレースとお呼び下さい。ライリー様」
「あ、ああ。ではグレース、もうじき授業がはじまるから、教室に戻った方が良いと思うよ」
「では、お昼に参りますね。ありがとうございます。楽しみにしています」
グレースは元気に駆け出して行った。それから毎日、お昼にグレースはやって来る。
「ライリー様、お昼ご飯。参りましょう?」
噂の元を誤魔化した挙句、第3王子殿下と側近候補達を手に入れた、強かなグレースの快進撃が始まる。
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