第7話 特別室

 事故についての報告書が、各家に送られた。かなり細かい内容だったが、回復はアカデミーの回復師とポーションで行ったことになっていた。ミリアの協力があった事は、秘密にされた。


「あなたの事は秘密にしたの。良かったかしら?」

「はい、助かりました」

「何人かは気付いているから、私から口止めしておいたわ。あなたの事が知られたら、あちこち煩くなると思うのよ。真っ先に騒ぐのは、王家と教会ね」

「その為のマントだったんですね」


「第一体育館の壁は、調査の結果結界に問題があったことにしたの」

「はい」


(良かった。これ以上騒がれたくないもの)



 ここ数日、アカデミーを休んでいたライリー殿下が登校してきた。放課後、


「オルグレンさん、ちょっと良いかな?」


 ライリー殿下が、周りをチラッと見回してから、話しかけてきた。


 食堂の特別室に移動した。ここは王族専用の部屋で、豪華なソファセットとコーヒーテーブルが置いてある。観葉植物が置かれ、壁には絵画とタペストリーまでかけられている。


 ライリー殿下が頭を下げた。

「この間はありがとう。回復魔法をかけて回ってたのは、オルグレンさんだよね」

「・・」

「兄上の側にいたから、君の顔が見えたんだ。勿論誰にも言ってない」

「・・」

「兄上は重傷で、助からないんじゃないかと不安だった。本当にありがとう」

「頭を上げてください。皆さん元気になられて良かったです」


 側近候補のジャック・スタンレーが話しかけてきた。

「何故秘密に?」

「色々問題が起きる可能性があるからと」

「学長だね?」

「はい」


「それで良いんですか?」

「?」

「王子の命を救ったとなれば、王家から褒美とか色々あると思いますが?」

「あの、あまり目立ちたくないので」

 ライリー殿下が苦笑し、側近候補達が顔を見合わせる。

「遅い気はするけど」



「俺に出来る事があったら、何でも言って欲しい」


(そっとしといて下さいとか? 駄目かな)


「特にないです」


「じゃあ、情報をひとつ。陛下の指示で、オルグレン宰相が調べ回ってる」

「?」

「ロバート・オルグレンと他2名が退学になっただろ?」

「はい」

「3人とも高位貴族の子息だから、アカデミーを卒業出来ないのは困るって、陛下にねじ込んできたんだ。で、陛下は宰相に調べるように指示を出したんだ。

気をつけたほうがいい。自分を回復したのは、アカデミーの回復師じゃなかった気がするって。兄上も怪しんでる」

「もし、バレたらどうなりますか?」

「恐らく、宮廷魔導士長が乗り込んでくるかな」

「教会もですね」

「やっぱりですか」

「嬉しくないのですか? 宮廷魔導士は国中の魔導士の憧れですよ」


 そう言ったのは、魔導士長の息子のリチャード・ミューラー。


「何になりたいとか、まだ考えてなくて」


「あれだけ強い魔法が使えるのに?」

 リチャードは青筋を立てて怒鳴る。


(なんか、怒られてる?)


 思わず、

「申し訳ありません」


 頭を下げた。

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