第6話 第二体育館
「デイビス先生! エクストラポーションはありますか?」
「どうしました? 何が」
「上級クラスで魔力暴走が。スティーブ殿下が!」
ライリー殿下が教室から飛び出して行き、側近候補の3人も後に続いた。デイビス先生は、ありったけのエクストラポーションを持ち、第二体育館へ走る。
残った生徒達は、不安げに顔を見合わせている。
「スティーブ殿下って」
「魔力暴走?」
「3年生だよな」
「オルグレン、ミリア・オルグレンはいるか?」
シーモア先生の大声が響き、全員が一斉にミリアを見た。
「ちょっと来い」
シーモア先生はミリアを連れて、走り出した。
第二体育館の中はあちこちが焼け焦げ、壊れた破片が飛び散っている。回復師が走り回っている他に立っているものはおらず、大勢の怪我人が床に寝ている。
「学長、オルグレンを連れてきました」
「ミリア、こっちに来て。あなた回復魔法使えるわよね。エリアヒールとかエクストラヒールは?」
「分かりません」
学長が近くにいた回復師に声をかける。
「そのマント、ちょっと貸してくれる?」
ミリアはマントを着て、フードを被る。
「じゃあ、やってみて。アカデミーの回復師も何人か事故に巻き込まれてて、回復が間に合わないの」
ミリアは体育館を見回す。今まで、ヒールで小さな傷を治したことしかない。何から手をつければ良いのか。
「何からすれば良いですか?」
「まずは、全員にエリアヒールを」
ミリアは、全員を目に入れながら両手を広げた。
【エリアヒール】
体育館の中が金色の光に包まれ、軽傷者の傷や火傷が治っていく。学長と共に重傷者の元に走った。
「学長、エクストラポーションがもうありません」
「ミリア、エクストラヒールを試してみて」
ミリアは大きく深呼吸をして、酷い火傷を負っている生徒に手を触れて、
【エクストラヒール】
先程よりもっと明るい光が、ミリアの周りに溢れた。目の前の生徒の火傷が治っていく。
(これなら出来るかも)
ミリアは全体にエリアヒールをかけながら、重傷者にエクストラヒールをかけ回る。途中からは身体に触れていなくても、エクストラヒールがかけられるようになった。
全員の火傷や傷が治った。周りの先生や生徒達が、唖然としている。
「ありがとう、助かったわ」
「あの、授業に戻っても?」
「そうね、今は何の時間だったのかしら」
「デイビス先生の、錬金術の実習でした」
「デイビス先生? なら、説明はいらないみたい」
口を開けて呆然とミリアを見つめる、デイビス先生の姿がそこにあった。
事故は生徒達の悪戯から起きたらしい。
第一体育館が壊れているため、結界を補強した第二体育館で講義が行われた。
「なあ、昨日第一体育館壊れたんだよな」
「結界をぶち破るとか、どんだけの威力?」
「試してみたくないか?」
「だろ? だから、こいつ持ってきた」
1人の生徒が持っていた、学校内では禁止になっている攻撃力アップのポーション。3人の生徒がポーションを飲み、
「まずは俺から。【ファイアボール】 」
「足りない? じゃあ追い風だ。【トルネード】 」
「くそ、まだ壊れないじゃん。【ウォーターカノン】 」
大きな爆発音がして、体育館が揺れた。強力な火と水で、水蒸気爆発が起きたのだ。結界は壊れず、爆発の被害は体育館の中だけ。その分中にいた者達の被害は凄まじく、死傷者なしで終われたことは奇跡だった。
重傷を負っていた生徒達は、念の為医務室へ。スティーブ殿下は王宮から迎えの馬車がやってきた。
ポーションを持ってきたのは、ロバート・オルグレン。事故を起こした3人は、退校処分となった。
アバディーン侯爵がブチ切れた。
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