第2話 授業

 寮の自室に入って鞄を置いた。寮とは思えない広いリビングには、テーブルとソファ。窓の横には広い勉強机と、空っぽの本棚。左右にドアがあるので、寝室以外にも部屋があるようだ。

 他の部屋を見に行く元気がない。


 ミリアは大きなため息を吐いて、ソファに座った。



「あの、オルグレンさん。ちょっと良いかしら?」

 3人の女子生徒が、ミリアの前に並んで立っている。


「オルグレンさんが、新入生代表挨拶を辞退されたのは、とても良いことだと思うの。とても勇気のあることだと思うわ。だから、ねぇ」

 隣の女子に賛同を求める。


「そう、折角間違ってるって認めたんだから、最後まできちんとするべきじゃないかなって」


「すみません。仰っていることがよく分からないのですが」


 ライリー殿下が、側近候補の3人を連れてやってきた。


「やあ、話に参加しても?」

「「「ライリー殿下」」」


 殿下はとても人気があるらしい。女子生徒達が頬を染めている。


「学校内では、ライリーで良いよ」

「では、ライリー様」


「オルグレンさん。今回の噂の原因は、君が代表挨拶を辞退した事にあるんじゃないかと思うんだ」

「そうなのですか?」


「首席を逃した俺が言うのは変なんだけど、このアカデミーで主席というのは、凄く名誉があることでね。

それを辞退した理由が分かれば、問題は解決すると思うんだ。どうかな?」


「・・理由は言えませんが、不正はしていません」


「でも、侯爵家のアーティファクトが、無くなってるのでしょう?」

「そうなのですか?」

「それを使って不正したんでしょ?」

「いいえ」


 遠くから声が聞こえる。

「正直になれば良いのに」


「悪いけど、そう言う噂のある人と一緒に、授業を受けるのはご遠慮したいわ」


(最初からみんな、私が不正したって信じてるのよね。明日から憂鬱)



 アカデミーに入れば、初めての友達が出来るかもしれない。少なくとも、堂々と本が読める。寮に入れば、ロバートの怪しい薬とグレースの癇癪からも逃げられる。


(楽しみにしてたんだけどな)



 今日は朝から、クラスの雰囲気が最悪だった。教室に入った途端、生徒達は静まり返る。チラチラとミリアを見ながら噂話をする人と、完全に無視する人。


 授業初日、シーモア先生の数学の授業がはじまった。



 1週間経っても、クラスの様子は変わらなかった。挨拶をしても無視される。側を通りかかると、これ見よがしに大きく避ける。


(これ位、慣れてるけどね)



 2週間目の火曜日、午後の授業は初めての魔法実習。トレーニングウェアに着替えて、第一体育館へ急いだ。


 アカデミーには3つの体育館があり、第一体育館が1番大きい。ミリアは中に入って、1人ぽつんと授業開始を待っている。


 実習担当のワドル先生と、数名の補助教員が入ってきた。


「授業を始めます。整列」


「今日は簡単な能力チェックを行います」

 生徒達が騒つく。


「それぞれ得意な魔法を、あの的に向けて打ってください。属性はなんでも構いません」


「先生、思いっきりやって良いんですか?」

「良いですよ。この体育館は強力な結界で守られています。壊せた人はいませんが、壊す位の気迫でやって下さい」


「さて、出席番号順にいきましょう。アダム・シーマン、前へ」

「げぇ、最初ってマジかよ」


 1人ずつ順番に攻撃魔法を放つ。的に当たる者もいれば、当たらない者もいる。


 ミリアの番が来た。

「ミリア・オルグレン前へ」


 ミリアが魔法を放つ。どーんと大きな爆発音と共に、体育館の壁に大きな穴が開いた。


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