第6話 試験勉強

 王都に連れてこられてから1年経った。ミリアは11歳になった。


 生活は相変わらずで、日の出から夜中まで走り回っている。長年の栄養不足が祟り、平均よりかなり小柄。同い年のグレースは既に女性らしい体型になりつつあるが、ミリアはガリガリに痩せている。



 アバディーン侯爵が突然帰ってきた。


「お帰りなさいませ。旦那様」

「あれはどこだ?」


「何のことでしょうか?」

「教会から連絡が来た。あれミリアのことは教区簿冊に記載されている。8歳になっても初等学校に来ない。10歳の時も教会に行かなかった。来年はアカデミーに通うのか確認が来た」


「アカデミーなど、行かせるわけないでしょう」


「そうはいかん。ならなぜ、初等学校に行かせなかったのかと言われる」

「王都で行かせたことにすれば?」


「馬鹿者。教会は全て繋がってる。そんな誤魔化しができるか。スチュワードに確認したが、今はこっちに連れてきてるんだな」

「まぁ、確かに」

「来年アカデミーに行かせるから準備をしろ」


「とんでもありません。来年は、グレースが入学しますのよ。同級生だなんて、恥をかかせるおつもりですの?」


「仕方ないだろう? お前が初等学校に行かせなかったんだ」



 談話室に呼び出された。今日は奥様メリッサが1人で座っている。眉間に皺を寄せ、今までで一番機嫌が悪そうだ。


(新しい実験じゃなさそうだけど)


「明日から、家庭教師がきます」

「?」

「返事は」

「はい」


「1年間、アカデミー入学試験の勉強をします」

「は、はい?」


「全く冗談じゃないわ。お前なんかがアカデミーの試験だなんて。とにかく受けて落ちてくれば良いの。分かりましたか?」

「はい」


 正直、分かっていない。


「明日9時までに、朝の仕事を終わらせて第二教室へ。先生をお待たせすることがないように。ミセス・エバンスには話してあります。良いわね」

「はい」



「アカデミーでは、文法・論理学・修辞学・数学・ 幾何学・音楽・天文学の7教科を学びます。

その他に、選択科目として、古代ギリシャ語文法・ラテン語・古典文学・魔法理論及び魔法実技・錬成術・魔道具・体術の7教科があります。


入学試験では、主に文法・数学・ 幾何学・天文学。古代ギリシア語かラテン語の基礎知識が試されます。


また、魔力量や属性の検査も行われます。


ここまで、宜しいですか?」


 宜しくない。ミリアは全然意味が分からない。


 この日から猛特訓が始まった。朝9時から昼食を挟んで、夕方6時まで。複数の教師が入れ替わり立ち替わりやってくる。

 全ての教師が宿題を出してくるので、夜は殆ど徹夜状態。昼の休憩時間が唯一の睡眠時間になった。


 ミリアにとってラッキーだったのは、教師の1人が奥様メリッサに抗議してくれたので、授業前の下働きの仕事がなくなった事だった。

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