第5話 耐性

 翌年の9月、ロバートがアカデミーに入学した。奥様とグレースも王都に来ていて、今回はミリアも一緒に連れてこられた。



 ミリア達が暮らすオレルアン王国は、クリミア公国から独立して80年。国の行政機関などは、未だに政策が二転三転している。


 初等学校は8歳から。授業料等免除なので、全ての平民が通っている。ここでは、読み書きや計算、道徳や礼儀作法などを習う。


 貴族の子女は家庭教師から学び、12歳になるのを待ってアカデミーへ通う。


 アカデミーは身分に関係なく、試験結果次第で入学する事が出来る。試験はかなり難しく、魔力量や属性などの資格審査もある。


 12歳から15歳までの中等部と、16歳から18歳までの高等部に分かれている。


 アカデミーを卒業したものの中で、大学に進む者もいる。彼らは、神学・法学・医学のいずれかを選択する。



 ロバートは、時折怪しい薬を作っては、ミリアで人体実験を行なっていた。1回目の時を除けば罪悪感はないようで、嬉々としてミリアを呼び出す。


「もし失敗したら、メイドなんて幾らでもいるからね」


 ロバートにとって、メイドは使い捨てのようだ。

 ミリアは何度か断ったが、その度に酷い体罰を受けて無理矢理薬を飲まされた。そのお陰で、


【毒耐性】 Lv.3


になった。



 ミリアは今年10歳になった。通常10歳の誕生月には教会で、使える属性やスキルの有無を教えてもらう。

 ミリアはそんな事とはつゆ知らず。今日も雑巾とモップを持って、屋敷中を駆け回っている。


 ロバートが日中いなくなっても、家にはグレースがいる。兄がアカデミーに入学し、暇になったのだろうか。毎日ミリアに用事を言い付けては、意地悪をしてくる。


 グレースの部屋はとにかく汚い。使った物は使いっぱなし。メイドが片付ける端から、物を出して行く。そして物が無くなったと言っては大騒ぎ。

 毎月の様にメイドをクビにするので、何がどこにあるのかますます分からなくなっていく。次のメイドが見つかるまでは、ミリアがグレースの部屋付きのメイドをする。


「ミリア! あんたが隠したんでしょう」

と、蹴りを入れる。


「ミリア! さっさと片付けなさいよ」

と、物を投げつける。


「ミリア! お茶が冷めてるじゃない」

と、頭から紅茶をかける。



 ロバートはアカデミーで、錬金術クラブに入った。夕方、ロバートが帰ってきた。ニヤニヤしているのは、ミリアにとって危険な兆候だ。


「ミリア、後で僕の部屋に来てくれ」


 また新しい毒薬を作ったのか? ミリアは今、


 【鑑定】     Lv.5

 【毒耐性】    Lv.4

 【キュア】    Lv.3

 【状態異常無効】 Lv.2

 【身体強化】   Lv.4



 ミリアは、箒とちりとりを持って廊下を走っている。グレースが癇癪を起こし、飾られていた壺を壊してしまった。


(奥様のお気に入りの壺だわ、ヤバい)


「お母様、ミリアが!」

「なんて事を! ミセス・エバンス、これミリアを連れて行って。鞭打ちの上食事抜きよ」



 グレースが目の前で、ドレスを破いてから叫ぶ。

「きゃあ、お母様。ミリアが私のドレスを」

「なんて事を。お前ミリアがやったの?」


 “はい” と、“申し訳ありません” しか言えないミリアは、黙っている。


「これじゃあもう着れないわ。お母様、新しいドレスを作ってください」

「全くお前ミリアのせいで、無駄な出費だわ」

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