第3話 厨房

「今日は終日厨房にいなさい。但し盗み食いしたら、タダじゃおかないからね」

「はい(お腹すいた時なんとかできる魔法ないのかな?)」

「何ぼーっとしてるの、さっさと水を汲んどいで」

「申し訳ありません」


 急いで桶を持ち、裏口から出て行く。井戸から水を汲んで、桶に移しては厨房に運ぶ。何回か繰り返すうちに、厨房の甕が水で一杯になった。


「次は、そこにある野菜の皮を全部剥けよ」

「はい」


 厨房に、料理の香ばしい香りが漂い始めた。

「邪魔なんだよ。突っ立ってねぇで皿を持って来い」

 コックに突き飛ばされた。

「はい」


(そう言えば、昨夜からご飯食べてないな)


 旦那様達の食事をメイド達が運び、ミリアは鍋や包丁を洗い始めた。盛り付けた料理の残りや、スープが皿に盛られた。コック達は椅子に座り、パンにバターやジャムをたっぷりとつけ、物凄い勢いで食べている。戻ってきたメイド達も食事を済ませて、仕事に戻った。

 メイド達が、食堂から食器を運んできた。


「全部洗って片付けとけよ。終わったらこれがお前の朝飯だ」


 テーブルの上には、硬くなったパンが一つ置いてあった。


 片付けを全て終えて、パンを食べ終わると直ぐに、昼食用の野菜の皮剥きを始める。コック達は椅子に座り、のんびりとお喋りをしている。

「さっさとしろよ、とろくせえな」

「申し訳ありません」


 夜になり、パンを一つ貰い屋根裏部屋に戻る。


(魔法を覚えても、詠唱なんてしてる暇ないなぁ)



 その日からミリアは、【ライト】の魔法を詠唱なしで使えるまで、何度も何度も練習し続けた。


 一週間経ち、旦那様達は揃って王都へと出発した。帰ってくるのは、社交シーズンが終わる秋。それまでの間は、使用人達は少し暇になる。



 ミリアは今日も、屋敷の中を走り回っていた。


 いつまで経っても終わらない仕事と、メイド達のイジメ。掃除したばかりの廊下に、バケツの水をひっくり返して、やり直しをさせる。掃き集めた落ち葉をわざとばら撒く。少しでも気に入らない事があると、モップや箒で叩き、蹴りを入れてくる。

 毎日、身体中に新しい痣が出来るのを、こっそりと【ヒール】で直していた。


 夏の暑い日に、庭掃除を言いつけられたミリアは、庭の真ん中で倒れてしまった。


「何サボってんの? さっさと起きて仕事しなさいよ」


 メイドが蹴りを入れてくるが、ミリアは立ち上がる事ができなかった。真っ赤な顔をしているミリアに、メイドが桶で水をかけた。


「ほら、さっぱりしたでしょう」


メイド達が、ゲラゲラと笑っている。



 その日、何とか仕事を終えたミリアは、


(【ヒール】って怪我しか治せないんだよね。体力回復とか病気の治療とかできる方法ないのかな)


 数日後、漸くメイド達の目を誤魔化せたミリアは、図書室に忍び込んだ。

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