番外編その3 1年後~サミュエルからのサプライズ~ 俯瞰視点(2)
「ヴィクトリア、今夜はもう一つお願いがあるんだ。俺が合図を出すまで、これをつけておいて欲しいんだよ」
馬車の停止を合図にして、サミュエルが懐から取り出したもの――。それは、細めで長い黒の布。目隠し、でした。
「何度も我が儘を頼んで申し訳ない。お願いします」
「分かりました。サミュエル様、私はワクワクしていますよ? 楽しいことを企画してくださり、ありがとうございます」
お詫びに対してヴィクトリアははにかみを返し、目隠しを巻いて視覚を遮ります。そうするとすぐにサミュエルが
((……ここ……。潮の香りと、波の音がする……))
海辺に建つホテルで感じたものと似た香りと、遠くで聞こえる穏やかな音。それらをヴィクトリアは、嗅覚と聴覚で感じ取りました。
((だとしたら、ここは海で……。キュキュッって、音がするようになって……。潮の香りと波の音が、濃く大きくなったから…………。砂浜に向かっているのかな……?))
その予想は、正解。2人が今いるのは、『ブリエの砂浜』と呼ばれる場所。サミュエルはキメの細かい砂の上をゆっくりと慎重に、ヴィクトリアが極力揺れないようにして進み――。そんな時間が5~6分ほど続いて、前進がストップ。
「お待たせしました。到着したよ」
そんな言葉と共にゆっくりとヴィクトリアを下ろし、
「ありがとうございます。サミュエル様。丁寧に運んでいただけて、幸せでした」
「そう言ってもらえると、嬉しいよ。実はね、ここにある景色を見てもらいたかったんだ。……失礼します」
サミュエルは、ヴィクトリアの視覚を遮っている目隠しを解き始めます。
しゅるしゅる、しゅる。ふわり。
そうして黒色の布が優しく解かれ、ヴィクトリアは静かに両方の瞼を上げます。すると――
「わぁ。綺麗……っ」
そこにあったのは、幻想的な世界。
空に浮かぶ、美しい満月。大きく真ん丸な月の光に照らされ、波打つたびにキラキラと輝く海。
そんな光景が、ヴィクトリアの目に前に広がっていたのです。
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