番外編その2 サミュエルの悩みが消える時 サミュエル視点(2)

「あれは…………そうか、他国のご令嬢なのか。珍しいな」


 馬車を降り、湖畔を目指している時だった。前方50~60メートル先を見慣れない集団が歩いており、護衛から情報を聞いた俺はついつい目で追ってしまっていた。

 これまで他貴族と居合わせたことはなく、今回は更に異国だった。そんな理由で意識していて、それが理由で、運よく見逃さなかったのだ。


「? 坊ちゃま、どうされましたか?」

「イヤリングが、外れて落ちた。周りは誰も気が付いていないようだ」


 もしも踏まれてしまっては、彼女もイヤリングも可哀想。そこで駆け寄って拾い上げ、


「ご令嬢。こちらを落とされましたよ」


 周囲に余計な不安を与えぬよう、身分を伝えながらイヤリングを挙げる。そうすれば彼女は謝罪を行いながら振り向いて――


「「え……?」」


 ――俺とその人は、見つめ合って固まる。


「ぼ、坊ちゃま? どうなされたのです?」

「お、お嬢様? どうされたのですか?」


 これは初対面。お互いに、相手のことは何も知らない。

 知っているのは、容姿と性別だけ。

 更に言うと、見た目は非常に整っているものの、俺の好みというわけではなかった。

 なのに――



 この人は、他の人とは違う。



 未だかつて感じたことのない、心地良さを感じた。

 だから、


「…………あの……。よろしければ、お話しをさせてはいただけないでしょうか?」


 自然と、そんな声が出ていた。

 生まれて、初めて。俺は自ら心の距離を縮めようとして、


「…………喜んで……。私も、同じことを考えていました」


 驚くべきことに、なんとそれは相手も同じ。

 彼女も同じように動き、俺達は互いに歩み寄り、お互いを知っていく。そうすると更にその気持ちは大きくなっていって、気が付くとお互いに好きになっていた。


『紹介するよ。彼女がその人、真なる運命の人。撤回後に婚約を結ぶ相手なんだ』

『おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、ノエマイン伯爵家の次女・メリッサです』


 彼女がロンド湖を訪れた切っ掛けを知った時、愚かな者達だと思った。

 けれど。一つだけ彼らに同意できる点があって、それは――



 運命の人は本当にいる。



 ということ。

 俺は、あの日。運命の相手に出逢い、今日、そんな人と夫婦になったのだった――。

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