第11話 その後のオスカー(エピローグ オスカー編)俯瞰視点(3)

「今から三週間ほど前。ヴィクトリアさんはプチ傷心旅行リフレッシュとして隣国の観光名所ロンド湖を訪れており、俺達はその際に偶然出会ったのですよ」


 観光を行っている最中にヴィクトリアが私物をうっかり落としてしまい、それを偶々その場に居たサミュエルが拾う。そうして関係が生まれ、出会った時から2人ともに、相手の雰囲気を心地よいと感じていました。そのため旅行中に何度か食事などを行い、やがて恋仲となった。

 サミュエルの口から思いもよらない内容が飛び出し、オスカーはたまらずぽかんと大口を開けてしまいました。


「……僕が知らない間に、そんな事があったなんて……。全然、知らなかった……」

「貴方は、彼女を自分の都合で捨てた人間です。知る必要なんてありませんよ」


 サミュエルはヴィクトリアから、旅行の理由を――一方的な撤回の一部始終を聞いていました。そのためオスカーの全身に、今一度冷たく鋭い視線が突き刺さります。


「その様子ですと、関係の修復に来られたのですね? 言葉は悪くなってしまいますが――。ふざけるなよ? どれだけ彼女を振り回せば気が済むんだ?」

「っっ!! しょっ、初対面の相手に失礼だぞ!! 撤回し謝罪しろ!!」

「…………自分の都合で彼女の尊厳を踏みにじる言葉を吐き、あまつさえやり直したいとほざく。貴様のような輩には、礼儀なんて不要だ」

「っ……! っっ!!」


 全身に鳥肌が立ってしまう、絶対零度のような静かな怒り。それによってオスカーは無意識的に一歩下がってしまい、ですが、このまま引き下がる事は彼のプライドが許せません。

 そこで彼は、なんとも彼らしい、情けない手段に出ました。


「おいお前っ!! 僕は伯爵家の人間で、侯爵家にも多く友人がいるんだっ!! これ以上生意気を言うのであれば、持てる力を使ってお前の家に抗議を行うぞっ? それもでもいいのか!?」


 虎の威を借るキツネ。彼は他力を存分に使って脅しをかけ、けれど――。その優位は、瞬く間に崩壊してしまいます。


「謝るなら、今のうちだぞっ? 後悔する羽目になってもいいのかっ?」

「ああ、好きにすればいい。権力を持ち出すのは大人げないが――そっちがその気なら、仕方がない。ファリュスト公爵家の力を使って、相手をしてやろうじゃないか」

「………………え…………? ふぁりゅすと……? ファリュスト……!?」


 ファリュスト公爵家といえば、隣国御三家の一つ。王族とも深い繋がりを持つ、伝統と実力を兼ね備えた名家だったのです。

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