第9話 楽しいはずの時間は、悪い一面によって台無しとなってゆく 俯瞰視点(6)

 ※今回のお話に出てくるこの国の通貨ホールスは、1ホールス=1円の価値となっております。



「あたしが一番嫌いなのはねっ、あたしをバカにする人っ!! 途中で反省して謝るなら許してあげよ~と思ってたけどもうナシ!! おっきな宝石をプレゼントされても許してあげないんだから!!」

「誰かお前なんかに宝石をやるものか!! お前みたいな人間には1ホールスだって惜しいっ!! 愚者はどこまでも愚者なんだな!!」


 メリッサとオスカーは掴み合った状態で耳をつんざく大声を放ち、それによって更に怒りが増加。『掴む』だけでは足りなくなり、互いの身体を前後に揺さぶり始めました。


「あたしをバカにする人が一番嫌い!? 無茶を言うな!! 実際にバカなのだからそう言うしかないだろ!! 自覚がない愚者ほど恐ろしいものはない!!」

「正論言われたからってムキになってキモ!! そもそもっ、女の子に手を上げるなんてサイテーっ! 男の風上にも置けないヤツ~っ!!」

「自分も同じ事をやっているくせによく言う!! お前みたいなヤツは女にカウントしなくていいんだよ!! 愚者というジャンルがピッタリだ!!」

「ダブルブスがジャンルのヤツがなんか言ってる~っ!! ブースブース!! ダブルぶ~すっ!! それ以上触れるとブスがうつっちゃうから離してくださ~いっ」

「そっちこそ、接触していたら愚者菌がうつってしまう! 早急に離れろっ! 僕を汚染しようとするな!!」


 まるで、子供のよう。2人は感情に任せて口を動かし、その後も更にヒートアップしてゆきます。


「だいたいだ!! 初めて会った時から嫌な予感がしていたんだ!!」

「あ~っ、そ~いえば! 初めて会った時に実は占いで相性最悪って出てたんだよねぇ~っっ。占いを信じておけばよかった……っ!!」


「よく見たら、この人ってば全然魅力的じゃな~いっ。もしかしてあたし、この人に催眠術をかけられていたのかも~……っ!!」

「まったく僕はどうかしていた!! こんな内外共に醜い女に好意を抱いていたなんて…………っ!! この人生、最大の汚点だ……!!」


 メリッサとオスカーは様々な『嘘』を交えて相手をこき下ろし、それによって体内にある怒りが増幅し、ついに――。取っ組み合いが始まります。


「このぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 2人は掴み合ったまま地面に倒れ込んで揉みくちゃになり、ハルクとリーンが止めようとしますが、


「邪魔をするな!!」「邪魔をしないで!!」


 メリッサとオスカーは聞く耳を持たず、髪を引っ張り合ったり服を引っ張り合ったり。貴族とは思えない行動をして、およそ4分後。お互いのスタミナが切れたことによってこの争いは終わりましたが、怒りは治まりません。

 そのため――


「アンタの顔なんて二度見たくない!! あたしに二度と関わらないでよね!!」

「もしかすると、初めて気が合ったかもしれないな。……こんな輩と居たら、人生が灰色になってしまう。婚約は白紙だ!!」


 ――2人は背を向け、婚約の解消を宣言。こうしてメリッサとオスカーの婚約生活は、僅か19日で終わりを告げてしまったのでした――。

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