第9話 楽しいはずの時間は、悪い一面によって台無しとなってゆく 俯瞰視点(4)

「はあ!? 僕はそんな風に振舞った覚えはない! いい加減なことを言わないでくれ!」

「い~加減なコトを言ってるのはそっちでしょっ!? あたしは普通にふつ~にしてただけだもんっ!」


 お互いの言い分を聞いた2人は、即激昂。店の前という状況にもかかわらず顔を真っ赤にして声を張り上げ、


「ハルクや家の人間ならともなく、誰にでもニコニコするなんて……っ。気まずくなってきているとはいえ、僕という相手がいるのに……っ。ガッカリだよ……!」

「それはこっちの台詞だよっ! アレ、ぜ~ったいデレデレしてたっ! あたしが傍にいるのに~……っ。サイテー……!」


 その後は相手の言い分を無視し、非難。どちらもオーバーなリアクションで呆れを表して、揃って大きなため息を吐きました。


(な、主……!? なぜ、今日に限ってそのようなことを……!?)

(お嬢様も、どうして……。確かに、独占欲が強い方ですけど……。ここまで酷くはなかったのに……)


 ハルクとリーンの言葉は、事実でした。

 今回の出来事は、普段であれば看過できるものだったのです。けれど2人は相手の悪い一面をいくつも見てきていること、そして数時間前にあった衝突により、かつてない量のモヤモヤが溜まっていました。そのためいつもより沸点が低くなっており、このようになっていたのです――従者と侍女にとっても、計算外だったのです。


「我が主っ、そちらは社交辞令の一環ですよっ。ノエマイン様が愛するのは我が主だけですよ……!」

「メリッサお嬢様っ、あれらは紳士としての振る舞いの一つですよっ。ルーエンス様の視界にあるのは、メリッサ様だけですよ」

「うるさいぞハルク! お前は黙っていろ!!」

「邪魔しないでリーンっ! 部外者は下がっててっ!!」


 ハルクとリーンが懸命に説得を試みましたが、今の状態の――不満が爆発寸前の2人は、聞く耳を持ちません。

 ――自分の考えことが正しい――。

 そう信じている2人はハルクとリーンの肩を押し、真正面から睨み合いました。


「…………正直に認めないどころか、転嫁をしてくるなんて……っ。恥ずかしいとは思わないのか……っ?」

「転嫁してるのはそっちでしょっ! あ~あ。オスカーってば、女の子なら誰でもい~人だったんだ~。きもっ」

「っっ!! なんだってっ!? もう一回言ってみろ!!」

「い~よっ。きもっ! きんも~っ! 気持ち悪い男っ!」

「っっっ……っ!! お前の方が、男なら誰でもいいくせに……っ!! 面食い女!!」

「あ~れ~? 面食いって、もしかして~。オスカーって、自分をイケメンだと思ってるの~? ぷぷぷ~っ、自惚れ屋さんだね~」

「お前の方こそ自分を可愛いと思っているだろ!! その喋り方とか、痛いんだよ!! いい年してぶりっ子するな!!」


 今の2人には、これまで長所に見えていたものは短所に見えています。そのためカッコイイと感じていた顔も、可愛いと思っていたしぐさも、忌々しい。

 オスカーとメリッサはお互いの顔を指さし、その悪口によって――。怒りの炎は、更に燃え上がることになるのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る