第4話 新たなモヤモヤ(オスカー編) オスカー視点(2)

「え……? ぇ……? どうして、そうなるんだい?」


 彼女の言い分を理解できず、僕は間抜けに目を瞬かせた。

 お代わりは要らない。それがなぜ、不味いになるんだ?


「すっご~く美味しいなら、普通ふつ~お代わりをしたくなるでしょっ? なのに、しないって言うんだもんっ。そーゆ―コト、だったんでしょっ?」

「ちっ、違う違うっ。お断りした理由は、3杯も飲ませてもらったからっ。すでにお代わりをしていて胃の容量的にこれ以上飲めないから、そう言っただけだよっ」


 ずっと我慢をしていて、追加を拒否したんじゃない。そろそろ限界が近くて、そう返しただけだ。


「……でもオスカーは、おトイレから戻ってきたらスコーンを食べるんでしょっ? 食べちゃうんだよね?」

「あ、ああ。そうだね」

「じゃー余裕あるじゃんっ。やっぱりお腹いっぱいはウソだったっ。実はあたしのアールグレイ、我慢してたんでしょっ?」

「メリッサ、そうじゃないんだっ。スコーンは、固体だから食べられるんだよ。もしテーブルの上にあるのがああいった系統だったら、そっちも遠慮しているよ」


 たとえば、ゼリー。こういうものがあったら、あとで食べるようにしている。


「スコーンは口内が適度に乾いて、口の中の水分のバランスも良くなる。それらの理由で食べようとしているだけで、他意は全くないよ」

「……………………」

「ほら、デザートは別腹みたいなものだよ。君だって、お腹いっぱいになっても甘いものは入るだろう? それと同じだよ」

「…………違うもん。デザートは、美味しいからお腹いっぱいでも食べられるんだもん。だから、紅茶が美味しいなら紅茶も別腹でまだまだ飲めるもん」


 メリッサは再び頬をぷくっと膨らませ、ジト目をこちらへと送ってきた。

 は? はぁ? 彼女は、なにを言っているんだ……?


「め、メリッサ? 自分が言っている事が、分かっているのかい? その理屈なら、フルコースのあとに大好物が出てきたら、ペロリと食べられるようになるよ?」

「ん、そだよ。だから、『いくらでも食べられちゃう』って言葉があるんだよ?」

「……い、いやね。ソレは、比喩的表現で――」

「あたしは実際そうなんだもんっ! あたしとオスカーはどっちも人間なんだから、おんなじなんだもんっ! あたしの紅茶が美味しくなかったら断っただけなの!! そうなの~っっ!!」


 メリッサは全身を使ってブンブンと左右に振り、涙目になってキッと睨みつけてくる。


 ……どうして、僕が睨まれないといけないのか……。


 そういった疑問が大量に湧いてきているけれど、このままでは埒が明かない。今の彼女に正論は通用しそうにないため、


「た、確かにそうだね。君の言う通りだ。美味しかったは事実だと証明するために、お代わりをもらうよ」


 仕方なく、話を合わせることにした。


「だから、機嫌を直しておくれ。ね?」

「…………んっ。また美味しいのを淹れてくるから、待っててね~」


 そうすれば、やっと。悪天候になっていた彼女の機嫌は戻り、足取り軽くキッチンスペースへと消えていったのだった。


 そして――。

 その後僕は更に3杯も飲む羽目になり、その日は一日中胃が気持ち悪くなってしまったのだった…………。

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