第3話 生まれ始める、2つのモヤモヤ 俯瞰視点(オスカーside&メリッサside)(2)

「はぁ~。こんなはずじゃなかったのになぁ」


 同時刻。同階にある、メリッサの自室。同じく睡眠をとるべくベッドに入っていた彼女もまた、今日の出来事を振り返ってため息をついていました。

 メリッサの予定では、パパッと引っ越し作業を終わらせて、楽しくお喋りをしたり美味しいご飯を食べるようになっていました。けれど半分は2人だけで行うようになり、時間も体力も使ってしまった。そのため、酷くガッカリしていたのです。


「…………オスカーは……。どんな時でも、あたしと意見がピタ~ッと合う人だったのになぁ」


 オスカーがノエマイン邸を訪れた際には毎回お喋りをしていて、その時は一度も意見が不一致となったことはありませんでした。


『あたし、メリハリって大事だと思うんですよ~っ。どーでもいートコはヘタっと力を抜いて、どーでもよくないトコはグググっと力を入れちゃうっ。コレ、大事だと思いませんか~?』

『分かるっ、よく分かるよメリッサ。強弱は大事だよね』

『わぁっ、オスカーさんは違いが分かる方ですね~っ。おねぇちゃんはそーゆー融通がききにくくって、あたし的にはやれやれって感じなんですよ~』


『??? 今日のメリッサは、疲れているように見えるね。何かあったのかい?』

『はぃ~……。ゆうべお友達の家であったパーティーに出たんですけどぉ、その時に声をかけてきた人がしつこくって大変だったんです~。『明日会おう』とか『君は俺と結ばれるために生を受けた』とか。あたしのコトは完全無視で決めつけて、ストレスが溜まっちゃいました~……』

『はぁ、その者は実に情けない男だな。どんな時であっても、愛する人への気遣いは忘れてはならない。当然の如く相手の意思を尊重であり優先する気持ちを持っていない男は、駄目だ。男の風上にも置けないクズだよ』

『そ~ですよね~っ。ぁ~ぁ、世の中がオスカーさんみたいな人だけだったらい~のになぁ~』


 どんな話題であっても、そのどれもが一緒。一度も食い違ったことはありませんでした。



 ――だから――。これまでも、これからも、ずっと一致と思っていたのに――。



 オスカーは、自分に当てはめずに応えていた時が幾度もあった――。そうとは知らず全てを知ったつもりでいたメリッサは、尊重され優先してもらえると――引っ越し当日の、円滑な進行を確信していました。期待しているが故に、そうではなかった時の落胆は大きくなる。

 そのため、早9度目となるため息を吐きました。


「…………もしかして、今後も不一致になっちゃう……? イメージしてた毎日は、なかったりしちゃうの……?」


 彼は天井へと呟き、けれど、すぐに首を左右に振って否定します。


「ん~んっ、今日はたまたまっ。夫婦への第一歩だから興奮しちゃって、普段と違う反応になっただけだよねっ。うんうん大丈夫~っ。明日は全然違ってって、たのし~く過ごせちゃうよねっ」


 だって、ず~っと一致してたんだも~ん。そうとしか考えられないよねっ。もぅあたしってば、マイナス思考はバッテンだよっ。

 メリッサは過去の例を当てはめ、不安を払拭。期待に胸を膨らませ、瞼を閉じたのでした。


 明日、それ以降も、再び不一致が起こるとは知らずに――。

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