あの海は私たちの涙でできている
私たちの涙でできている。
この教会を遠くから見つめるあの「母」を、そう呼んだ人がいた。
今日が秋晴れでなく、私が海に面した窓を開けなかったならば、そのまま出会うことはなかっただろう。
無人の聖堂に礼拝に来た潮風が、おせっかいにも、気づくように歌わせたのだ。
神の言葉の集まりは決して立てることはない、駆けるような音色で。
ブックカバーの代わりに英字新聞で表紙を覆われた文庫本が、見慣れた長いすの上にあった。
顔を覆う布の合間に一度だけ手を差し入れ、私は薄灰色のページをめくった。
神が宿るもの以外を読むのは久しぶりだった。
それは、とても悲しい詩集だった。
母と子に別れを強いる、大きな大きな、星の流れの物語。
その最後の言葉が、こうだ。
私たちの涙は、今日も輝いていた。
涙は、青かった。
揺らめきたって、光り輝いて、白くなって、動いていた。
祈りにも関わらず、昨日も、遠い国で多くの子供が亡くなったという。
あの海は、私たちの涙でできている。
その本を、私は祭壇の上に置いた。
海から生まれた私たちは、何故涙に還らないのですかと、問いたくなったからだ。
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