雪原の迷子
果ての世界は、どうして、いつも雪と氷ばかりなのだろう。
丸い球の上、どこが一番上かも下かもわからないはずなのに。物語の旅で、地図の上はいつも凍てつき、草も生えない土地だった。
昼は陽の光を受けまぶしく輝き、夜も月の明かりで歩き続けられる世界。
手のひらのように平らな氷の板の上に、私の生活は乗っている。
学校の社会の先生は紀行文を引用しながら紹介してくれた。この地で逢引は出来ない。冬はブリザードが心ごと凍りづけにしてしまう。風雪の無い夏は、数キロ先までが見渡してしまい、隠れる場所がないと。
自分の目で見て、ようやくその言葉も実感できる。
遭難など、絶対になさそうなこの場所で、私は心の迷子になっている。
砂漠のように、瞬きのたびに地形が変わっていったりはしない。この地の変化は、大きな音と共に、途方も無いスケールで、決して忘れられないように現われる。
静寂と激動の世界。
この場所でできることは、実はそんなに多くない。
声も感情も、息をしたりおなかを減らせたりする身体の感覚さえも。
凍りついた、星夜の雪原では奪われてしまうから。
そして私達は、ふと、誰かの作り物であることを実感するのだ。
やがと、蒼い月がこの夜の世界を制した。
冷たすぎる光に、星の瞬きなど怖れて隠れてしまう。
敷き詰められ凍りついた雪だけが待ちかねたように明るく光り始めた。
光をまといながらも全てをさらけ出す月は、太陽よりも強く、そして恐ろしい存在なのかもしれない。
この星に生きるものの魂を奪い続け、その恋焦がれる心に引かれ少しづつこの地上に近づきつつある月。
唐突に、世界の終わりを感じてしまった。
嬉しい気持ちも楽しいことも、思い出の中に閉じ込められたものさえ時間の中へ失われていく。
泣きそうになった。
泣いてもいいんだよ、と言って欲しかった。
けれど、ここを教えてくれたあの人には、はなむけに、凍えた手を重ね合わせるしかない。
会いたい。
この星のどこまで探したら、貴方に会えるだろうか。
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