人をなでる重さって、何グラム?
人をなでる重さって、何グラム?
地球の裏でやっているオリンピックのマラソン中継が23km地点を越えて、少し見飽きてきた頃、ふとそんなことが浮かんだ。
固まった身体をほぐしながらリビングからキッチンに行って、薄暗がりの中からはかりを探す。
赤いプラスチックの水切りざると薬缶の間に、いつも通りそれはある。
最大1500g、最小10gという表示に、電子秤を出した方がいいかなと思ったけれどやめにした。今は夜中だから。戸棚をひっくり返すのは、この時間の私じゃ、危ない。
「ハカリが狂うからやめなさい」
家庭科の先生の声が聞こえたまま、私は丸い天板に手を伸ばす。粉砂糖ほどの粒が14個くらい手について、針がくっと50gを示す。
(そっか、私は人の頭に卵一個乗っけるんだ)
なでてみる。針が50gを行ったり来たり。
あの人だったら、どうかな。
私をかいぐりする、今頃は明日の仕事のためにぐうぐう寝ているだろう彼の手になったつもりで、少し強めにはかりをなでてみる。
100gと、バネがぶよんと返る感触。
――不意を衝くように、つっつく。飛びのくように針、250グラム。
ついた人差し指が天板に打たれて、かすかにしびれる。
それでも目の覚めるような痛みはなく、瞬間的に見せられた数値は、疲れた瞼を少しだけ重くした。
人の手って、なんだかんだで優しいな。
だからその優しさが誰かの手で発揮されることを祈って、明日の一限はさぼりましょう。
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