僕たちは遊びの中にいる
僕たちは、遊びの中にいる。
三段に作られた観賞用の池に、雨が波紋を打つ。起きた音もない波が水面を舐め尽くし、また次の雨の波に消されていく。それが何百個だ。
足元の玉砂利を蹴りこんでもこんな風に広がることはない。泡が跳ねて音が鳴って、それっきりだ。音もなく水面に絵を描けるなんてまったくすごい。
まだ傘を差さなくてもいいと判断した僕は池の上に掛かった橋から、その様子を眺めていた。
雨の美術館あがりは、頭が良くなったような気がしていろいろ考える。
濃いコバルトブルーで縁取られた、エジプジャン・サービスと名付けられたカトラリーは素敵だった。
日本人には不釣合いなほど大きい黄金張りの玉座も、司祭杖も、眩暈のするほど細かく宝石をちりばめたパナギアも印象に残った。
その中で、夜会服だけが別格だった。
正気を疑うような装飾を施された貴族たちの宝石箱と食事器具の数々の後の展示にそれはあった。
金ボタンでかろうじてまだ見栄えを保っている軍服の隣で、背姿だけは一人前に展示されていた一着のドレス。
色さえも判別できない上着に、光沢を失った裾。
あんな長い服だったら部屋がそれだけで埋まっちゃいそうとかこの服を着ていたのは第何代の皇女とか余計な雑学をする声が奇妙に感じるほど、それは飾られるに相応しくないみすぼらしさだった。
厳格なマナーとダンス技術を求められた夜会の登場人物たちはこの衣装で登場したのかと考えて、ふと、シンデレラの話を思い出した。
彼女は義姉たちのようにお城に着ていくドレスが無いと魔法使いに嘆いた。
粗末な服は朽ちて証拠が残らない。
貴人の服は取って置かれて、時とともに色褪せていく。
結局シンデレラの話で一番ボロを着ていたのは誰だったのか?
脳の中で、何かの絵にいたふんぞり返る貴人がにやりと笑う。
どうです、賢くなった頭でうんうんうなって考えてごらんなさい。後で正解は聞きますから。
誰かの傘がぶつかり、傘の先からのしずくが背筋に落ちて僕は悲鳴をあげた。
分からない。
僕たちは、今も昔の貴族の遊びの中にいる。
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