第6話 状況確認
結婚事情についての理解を得られたところで、状況確認を始める。
「―で、ユイの住んでた国はどこ?」
ユイが名前で呼んでほしいと言ったので名前で呼ぶことになった。
「…ラギリエカ王国です」
「え、あったっけ?」
「失礼な。ありますよ」
そんな国は存在しない。
俺はユイに質問を重ねる。すると、俺とユイの生きている時代が違うことがわかった。
ユイは、中世を生きている。でも…その時代にラギリエカ王国なんてあったか?
え、「ラギリエカ」王国?
「…もしかしてユイって」
ユイはため息をつく。
「私の夫が、‥国王なんです」
「王妃様でしたか…」
そう言うとユイは乾いた笑みをこぼした。
「でも、魔王なのよ?」
急に敬語が取れた。どちらかというと、呟きのようだ。俺は静かに聞く。
「国民を考えず、自分の欲のためにこきつかう。魔法で国民を奴隷のように従わせる…」
ユイはふうと長い息をつくと、無理に口角をあげたような顔で俺を見た。
「あなたが来たとき、ちょうど革命が起きていたんです」
「…!」
「私は、夫の‥魔王の加護で魔法が使えます。実は魔法は王家しか使えないんです。革命で王族、つまり魔法使いを排除していて…結城さんが現れたのは、ちょうど魔女狩りに人々が力をいれていたとき」
ユイは諦めたような表情だ。
「私の話はこれでおしまいです。つまんなかったですよね」
「いや、そんなことない」
ユイが目を円くした。
「ユイは命懸けで今まで生きてきたんだ。それをつまんないとか、言うはずがないだろ?」
生きていてくれて良かった。心からそう思う。
「…結城さんの話を聞かせてください。」
ユイは少し目をそらして早口で話題を変えた。気のせいだろうか、頬がほんのり色づいているように見えた。
「さっきも言ったけど、引っ越す準備をしてたんだよ。田舎の実家に」
ユイは相づちをうちながら聞いている。
…引っ越しの理由まで全部言うべきか?
いや、今はやめておこう。ユイが疲れているのにわざわざ暗くて重い話をする必要はない。
俺は端的にラギリエカ王国へ行ったときの状況とその経緯を伝えた。
「…ってことで俺の話は終わりだ」
「はい! 理解しました!」
ということで、肝心の問題が残っている。
「ユイ、どうする?帰りかたもわからないし、そもそも王国の方が危険な気がするけど」
「ですよね…あの、その‥」
ユイが珍しくもじもじしている。
王国の方では年下が年上に頼んではいけないみたいなので俺が提案する(下心で提案しているのではない)。
「当分、家に泊まってけ。部屋はあるから」
「よろしくお願いします…!」
ユイは少し申し訳なさそうに頭を下げた。
「もともと妹がいた部屋に泊まってもらうんだけど、」
「わかりました!物に触れないように気を付けます!」
「じゃなくて、妹の小物とか、服とか、自由に使っていいから。あ、服は洗濯してあるから気にしないで使って」
「え?でも、妹さんは?」
「あの部屋、もう使う人がいないからいいんだ」
「…!」
ユイが衝撃を受けたような顔になる。
そう。もういないんだ。
俺は完璧な笑顔を張り付けた。
―自分を誤魔化すために。
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