第5話 婚期

―俺は暗闇の中を堕ちている。

 どんどん体が沈んでいき感覚がなくなっていく。

 その瞬間、雷が俺めがけて落ちてきた。

 俺はまともに食らってしまい、うめき声をあげる。

 稲妻に照らされ光に包まれた。 

 体がぐいっと引っ張られ、俺は―



 「―何をしているのかな?」

 目の前であの少女が俺に青白い光を纏いバチバチと鳴っている手を向けていた。

 少女は、綺麗な微笑みを顔に貼り付けたまま答える。(いつの間にか青白い光は消えていた)


 「いえ。なにも」


 静かな笑顔でにらみ合う。


 …負けたのは俺だった。はぁ。


 「…そんなことより、ここはどこなの?」


 少女はキョロキョロと辺りを見回した。

 俺らはベッドの上にいた。そしてそこは、物が散らかっていて、段ボールが大量に積まれている部屋…つまり、


 「…俺の家だ。」


 もう何がどうなってんのかわからない。そんなことよりも…


 「お前は結局誰?!」「あなたは結局誰なの?!」


 同じことを、同じタイミングで叫び、同じように顔を向けた。そして同時にふいっと背けたる。

 ふと、違和感に気づく。


 ―俺、腹を撃たれていたんじゃ…


 撃ち抜かれていたはずの腹に手を当ててみたが、以前と変わっていなかった。服も破けていない。

 俺が不思議に思っているとその様子に気付いたのか、少女が声をかけた。


 「怪我と服は、私が治した。…あなたが怪我したのは、私のせいだったし…」

 「魔法で?」


 少女はコクりと頷く。


 「ありがとな」

 「えっ? …私の方こそ、その…ありがとう。」


 俺は、徐に口を開く。


 「紹介が遅れたけど、俺は結城蓮だ。19歳で、今は引っ越しの準備していたところ。」

 

 俺は簡単に自己紹介をし、少女が自己紹介をするのをまつ。だが、少女は沈黙したままだ。


 「じゅ、じゅうきゅうさい…?!」


 なぜか目を白黒させている。


 「あの…早くお名前を…」

 「あっ、すみません。」

  

 そう言って少女は軽く頭を下げた。

 ……なんか、キャラ変わった?


 「ユイ・ラギリエカです。その、あの‥15歳です。先程までの失礼をお許しください…」

 

 「じゅ、じゅうごさい、だと…!」

 「ごめんなさい!」

 「何で謝んの?!」

 「年上の方にタメ口なんて‥本当にすみません!」


 どうやらラギリエカさん(?)の住んでいた世界は上下関係が厳しいみたいだった。

 それよりも‥本当に、15歳なんだ、よな? 最初に出会ったときは17歳くらいかと思っていたのに…

 改めてラギリエカさん(?)を観察して(?)みる。

 

 15歳の女子にしては高い背。

 あのときの威圧感。

 そして、15歳とは思えないほど成熟した身体…


 俺の視線に気づいたのか、ラギリエカさん(?)は両腕で自身の身体を隠すようにして俺を軽く睨む。

 

 「‥いくら年上の方だとしても、無理です。」


 何が、とは言ってないが、うん、十分に伝わったよ。もとより、そんなつもりはないが。


 「私、もう結婚してるので。手を出してきたらただでは済みませんよ?」

 「はいはい、わかった。って、ええっ!!」


 俺は一瞬フリーズした。


 「きこんしゃ、既婚者だったの?!!」

 「? ‥はい。え、普通じゃないんですか?」

 

 そう言ってコテンと首をかしげた。か、かわえぇ‥じゃなくて!


 「えっと、俺の世界では普通ではないかなぁ」

 「へえ‥ということは結城さんは独身、ですか?」


 俺は軽く頷いてこたえる。

 …多分気のせいだと思うが、きっと気のせいだが、ラギリエカさん(?)の視線に憐れみの念が含まれた気がする。


 「一応言っておくと、19歳で結婚は早いほうだからな?俺が婚期を逃したとかじゃないからな?」


 ラギリエカさん(?)…えぇいっ! 「さん」付けなんてやめてやる! ラギリエカは生暖かく微笑んだ。


 こいつ、絶対に信じてない…!






 



 


 




 


 


 

 

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