第3話 毅然

 引きずられて行くうちにだんだんと人の姿が減ってきた。地面はアスファルトではなく、乾いた土で土埃が寂しく舞い上がっている。

 俺は諦めてその見えない力に従っていたが、目の前に迫る壁に気付き、慌ててもがく。


 「んーっ、んーっっ、んーーーっっ!!」


 必死に体をよじり、見えない力に抵抗する。

 やばいやばい、まじで冗談抜きでやばいって!!あの壁にぶつかって止まるならましだが、この力の威力から考えると、止まるより先に俺が潰れてしまうだろう。

 せっかく助かったのに俺は結局死ぬのかよ。


 壁まで1メートルを切った。

 さよなら、俺の人生。

 俺はこれから来る衝撃に備え、固く目を瞑った。


 …………想像していた衝撃がこない。


 俺はそっと目を開けた。

 あれ、俺、止まってる! しっかり自分の足で地面に立っている! そして、俺は生きている!

 本日2度目の感動を味わっていると、周りの様子が今までと違っているのに気付いた。


 「ここは、どこだ?」


 俺は何かの建物の中に居るようだった。


 ―はっ?


 いやいやいや、なんで?!さっきまで俺、外にいたよね?!そんで、壁にぶつかって死にそうになってたよね?!(今考えてみると、死に方ダサくないか?)

 理解が追い付かず頭を抱えていると、静かな空間に誰かのすすり泣く音が聞こえてきた。


 誰かいるのか?


 俺は恐る恐る声が聞こえる方へ近づく。17歳くらいの少女がこちらに背を向けて泣いていた。


 「あのー」


 瞬間、少女は俺の方を振り向きキッと睨んだ。


 「なぜここが分かったの。」


 見た目より幼い声にも驚いたが、それよりも少女のその迫力に驚いた。数多くの困難を経験した者特有のオーラと言うのだろうか、迫力に呑まれそうだった。

 少女はふっと力を抜いて嗤った。その目は遠くを見つめている。


 「…私の力も堕ちたようね。結界が破られるなんて。」


 少女は俺にというよりは自分に言い聞かせているように見えた。


 「―無能と言われたと思ったら聖女と呼ばれて。そして今度は災厄の魔女。この世も落ちぶれたものね。」


 少女は乾いた笑みを浮かべる。そして俺に目を向けた。


 「―さっさと首を切ってちょうだい。そしたらあなたは英雄よ。」


 そう言って少女は俺の前に白い首筋を晒した。


 ……え?


 少女に死を怖がっている様子は見えず、毅然としていた。(みっともない羞恥を晒した俺にとっては耳が痛い)


 そうじゃなくて。


 俺が?この少女を?殺す?え、コロス?


 「えっと、なんで?」


 少女の目が点になった。




 



 


 


 





 

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