誰かが私の肩をポンポンと叩いた

その日の午後はデッキで読者をして過ごした。


悩んでいても仕方がない。


いつかもとの年代へと戻れることを願いつつ、今の状況を受け入れるしかないのだ。


夕食を取り、デッキのベンチで休んだ。


そのまま居眠りをした。


誰かが私の肩をポンポンと叩いた。


目を開けるとひさえさんが目の前にいた。


「だいぶお待たせ致しましたか?」


彼女は言った。


「いや、ここでくつろいでいただけだから大丈夫。


仕事お疲れ様。」


私は言った。


彼女は横浜の生まれの25歳の人だった。


結婚はしていなかった。


私達は、たわいもない話をした。


そして、私がこのように部屋や食事をあたえられ、船の中を自由に

動き回れるのは、船長の広い心のおかげだということも知った。


「船長さんはどちらにいますか?お礼を伝えたい。」


「艦橋か、船長室か。


明日、会ってもらえるか聞いておきますね。」


ひさえさんはそう言うとにっこりと笑った。



ひさえさんや、カメラマンの彼の話を聞く限り、今私がいるのは1932年のようだ。


戦前である。


これから押し寄せる大変な国難。


彼女はどのような人生を送るのだろうか。


私は彼女を救う為に何か助言しても良いのだろうか。


複雑な思いで、彼女の美しい横顔を見つめた。


夜の海はどこまでも穏やかであった。

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