彼女の横顔に惹かれシャッターを切った
朝食はおにぎりにしてもらい、カメラマンの彼に着いて行き、デッキで食べた。
3等客室の人間でも事前に見学を申し込めばデッキに入れたようだが、基本的には自由に船内を動き回ることはできない。
ただ、カメラマンの彼は例外であるし、何より私も普通の乗客とは違うのだ。
朝食の時間でデッキには他の乗客姿はなかった。
朝日が海面を照らし、きらきらしている。
気持ちの良い朝だ。
カメラマンの彼は、そんな朝のデッキの様子も、写真に収めていた。
私もこの景色を写真に撮りたい。
部屋に置いてあるリュックの中のカメラを思い出した。
私は我慢できずに部屋に戻り、リュックごとカメラを持ち出し、再びデッキに戻った。
カメラマンの彼は不思議そうな顔をして私のカメラを覗き込んだ。
「Nikonって書いてあるけれど、変わった形だね。
新しい機種?」
と彼は言った。
「ええ、まぁそんなところです。」
私は言った。
まさか90年後のカメラだとは言えまい。
不思議なことに彼はその後は私のカメラに興味を示すことはなかった。
乗客達は船内でくつろいでいた。
カメラマンの彼は世に出たばかりであろう小型カメラ(LEICA)で、そんな彼らの表情を、うまく光を捉えて撮影していた。
私も隠れて写真を撮った。
私は、トイレに行ってくるとカメラマンに伝えた。
彼の仕事の邪魔になると悪いと思ったからだ。
廊下を一人歩いていると、例の子供室があった。
スチュワーデスのひさえさんが、遊具を磨き、掃除をしていた。
そんな彼女の横顔に惹かれ、シャッターを切った。
「私を撮っているのですか?」
彼女は少し困ったような顔をして言った。
「すまない。いい表情をしていたから撮らせてもらった。」
と私は詫びた。
「仕事が終わったら、会えないだろうか?」
私は言った。
「私は夜の9時に仕事が終わるので、そのあとでしたら時間を取ることはできます。」
と彼女は言った。
「では9時過ぎにデッキはどうだろう?」
「はい。いいですよ!」
デートの約束を取り付けて、私は足取り軽く階段を駆け上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます