ウェイターは私の腕を掴むと食堂の入り口の扉の外まで追い出した

人々は屋外デッキで船上からの風景を楽しんでいた。


わたしもデッキにあったベンチに腰掛けてその雰囲気を楽しんだ。


気がつけば私はベンチで居眠りをしていた。


目が覚めた時には辺りは薄暗くなっていた。


夢の中でも腹は減るようだ。

そのような感覚は初めてであった。


先程屋外デッキにいた人々は周りにはおらず、私一人になっていた。


船内に戻り、何か食べ物をもらおうと、歩き回った。


いい匂いが下のBデッキから漂ってくる。


そういえば先ほど一等食堂を通ってきたことを思い出した。


あそこに行けば、美味いものがあるだろう。


夢の中であるし、テーブルの上に置いてあるものを適当につまんでしまおう。


一等食堂に入ると、タキシードを着た男性や、ドレスを着た女性が、銀の食器で豪華な食事をしていた。


一等食堂にはドレスコードがあったと、展示室の説明書に書いてあった。


私の格好は全てにおいて場違いであった。


若い紳士に近づくと、


「ちょっと拝借します」


と私はたった今テーブルに並べられたステーキを横から手でつまみ食いをした。


彼は驚いて、一瞬怒りと軽蔑の表情を浮かべだが、すぐにウェイターを呼び、


「こいつは何者だ」


と私を指さした。


ウェイターは私の腕を掴むと、食堂の入口の扉の外まで追い出した。


「三等客室のお客様ですか?

こういうことをされますと困ります。また同じようなことをされた場合には、船長に報告させていただきます」


ウェイターは怖い顔で、しかし冷静に私に言い渡し、食堂へと消えていった。


私は廊下に一人残された。


廊下に面した一部屋から、子供達の声が出て聞こえた。


先程見学した、大人達が食事をしている間に、子供の面倒を見てくれる部屋だった。


中を覗くと、先程屋外デッキで話をした女性スタッフが、子供達の遊び相手をしていた。


元々きれいな女性であったが、子供達に向けた笑顔はさらに美しい表情であった。


「ここの担当だったんだ」


私は廊下から顔を覗かせて言った。


「ええ。

お食事はもう済んだのですか?」


彼女は言った。


「それがまだなんだ(つまみ食いした一切れのステーキを除いては…)

それに私はこの船に間違えて乗ってしまったから。」


彼女はそうだったと思い出したように眼を大きく見開いた。


「余っているお料理があるか、確認してみます。


それにお休みになるお部屋もないですよね?

そちらも聞いておきますね。


お料理は…とりあえず先程の屋外デッキにお持ちいたしますので、そちらでお待ちください。」


彼女は私にそう言い、又、子供達と遊び始めた。

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