第7話 宿探しも大変だ

 あの後何件か宿を見て回ったがなかなか良い所が無かった。

 いや言い方を間違えた、良い宿はいっぱいあった、あったのだが……。

『何故かって……』

 アリスの方を見るとかなり疲れ切った様子だ。

 まず宿に入るのはぼくだ……。要は蜘蛛だ!

『何故かって……。それはアリスがここわ……とか、ここも……などなど、渋りに渋ってるせいでなかなか動かないからぼくが引っ張って行かなくちゃいけないわけよ』

 普通宿の従業員の前に大きめの蜘蛛が入ってきたらどうするよ、ビックリして大変でしょ! その後ろから腕を糸でぐるぐる巻きにされた可愛い女性が居たらどうするよ!!


『蜘蛛に買われている女性だよね、きっと!!』


『多分アリス以外の人とも話せると思うよ、思うけどさ考えてもみてよ、ぼくが()宿の店員さんに大人ニ名で宿を借りたいんですけど、って言う。まず喋る蜘蛛に驚く、そして糸で繋がれたアリスはそれに従う、ぼくは糸が繋がったまま部屋に入っていく、さて宿屋の人はなんと考えるでしょうね?』


『蜘蛛に女性だよね、きっと!!』


 巷でちまたで有名になるよね、蜘蛛に飼われている女性がいるって……。


『多分蜘蛛が話してる段階で討伐対象ですよねきっと!!』


 そんなこんなで、何件目かの宿にやってきた。

 他の宿に比べたらボロいけど納屋よりマシな宿に見える。

「ここならどう?」

「ここなら、行けそうかな……」

「んじゃ入るよ」

「ばぁい……」

 今回も相変わらずぼくが先みたい。

『こんにちは……、言わないけどね』

「アリス、早く……」

「あ、あのぉー。宿をお借りしたいんですけど……。」

「はーい……ひっ!!」

『ですよねぇ〜、やっぱりぼくに(蜘蛛に)驚くよね!』


「蜘蛛に人だ……」


『えっ! そっち!!』

 宿の奥から出てきたのは小さい女の子だった。

「ねぇ〜お母さん! 蜘蛛に飼われてるお姉ちゃん来たよ〜!」

「……へぇ! それ私の事!?」

『どんまいアリス』


「泣きたい」by アリス


「こらリリー、お客さんになんて、事……ひっ!」

『あんたもかい!!』

「蜘蛛!!」

『あ、あなたはですね!』

 ぼくは一歩二歩後ろに下がりアリスにどうぞ、とジェスチャーをする。

「あの〜、宿を借りたくて……」

「……あっ! はいはい宿ですね、良いですよ」

「えっ! 良いんですか?」

「はい、もちろん良いですよ」

 アリスはぼくの方を見て、泣きそうな顔をしていた。

『あ〜、よしよし良かったねアリス』

「じゃあ、大人二名で……」

「……大人二名?」

「……??あっ! 私一人で」

『絶対ぼくを数に入れたな!』

 その後、店主の女性にあの蜘蛛は私の召喚獣なので危害は無いことを伝えてくれた。

 その頃には店主のお子ちゃんはぼくに懐いていた。

 あまりにしつこかったから宙吊りにしたけどね。

「ごめんなさい、ごめんなさい、アグーヤメなさい!」

『怒られた』

 リリーはとっても喜んでいたけどね。

「では、一泊3食付きで銀貨1枚と銅貨2枚になります」

『結構割高だな、宿の外観からしても』

 アリスは少し泣きそうな顔をしながらこっちを見てくる。

 ぼくは何も言わずに『うん』と頷いておいた。


「じゃあ、いっぱ……ひっ!」


 腕に絡めている糸を引っ張った。

『絶対今一泊って言いかけたよね!!』

 違うと首を、横に振る。

「え〜とふつ、かはぁ〜!」

 アリスのお尻に糸を引っ付けた。

 再度首を横に振る。

「あの、ちょっと待ってて下さい」

 アリスが、ぼくに近づいてくる。

「どうしたら良いの……」

「10日、10日程とりあえず泊まることを伝えて」

「えっ! そんなに?」

「良いから、その間にギルドでクエストこなして行くから、ぼくに任せて」

「わかった……アグーに任せる」


「あのー、とりあえず10日でお願いします」

「10日ですか!」

「ダメですか?」

「いえいえ、ごめんなさい。そんなに泊まって頂けるなんて思ってもいなかったものですから」

「そうなんですか?」

「この宿は私と娘しか居ません、それに他の宿よりあまりね」

「この宿ボロだからさ、お客さんがなかなか来ないんだよ」

「こら、リリー! お客さんになんて事! すいません」

「いえいえ、私は逆にここ落ち着きますよ」

「そう言って頂けて助かります」


 その後案内された部屋へ行くとしばらくアリスは感動して、あれやこれやと探索していた。

『まぁ探索するほど大きくは無いんだけどね』

 その光景を宿屋の店主の女性は不思議そうに見ていたのは言うまでもない。

「じゃあ何かありましたら言って下さいね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 店主が部屋を後にすると、ぼくに近づいてきてぼくを抱き抱えてベッドへ横になった。


『ぼくまだ蜘蛛ですけど!?』


「どうしたの?」

「ううん、アグーが私の召喚獣になってくれてから楽しい事や嬉しい事が増えたなって、こんな良い部屋にも泊まれるなんて幸せだよ」

「何言ってるの? アリスはもっともっと上にいけるよ」

「何でそんな事がわかるの?」

「ぼくがいるからだよ」

「え? 自慢?」

「いや、別に自慢はしてないけど、ぼくは〝〟召喚獣だからね」

「誰がそんな事言ったの?」

 ぼくは上空に向けて手を伸ばした。

「うえ?」

「そう、上の人のお墨付きでね」

「……??」

「さぁ、早速ギルドに行くよ。お金稼がないと行けないからさ、あとまだ蜘蛛だけど良いの?」

「!! うん……だいぶ慣れたから大丈夫」


『慣れたって……』


 その後店主に出かけてくる事を伝え、ギルドに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る