第27話 打っては消し、打っては消し

 翌日の放課後、俺は一人電車に揺られながら、あまり行ったことのない『三代駅』という場所を目指していた。


 私立三代高校。


 これが、日曜日に小咲さんへ近付いてきた、派手め女子二人組の通っている高校だ。


 幸い、その三代駅から、三代高校までは歩いて五分ほど。


 電車賃はそこそこしたけど、学校までは簡単に辿り着けそうで、一安心というところだった。


 ……それにしても、なんで俺が彼女らの高校まで既に知ってるのか、とツッコみたくなるところだろう。


 簡単だ。いわゆる、SNSを利用した特定というやつである。


 SNSのアプリ内で小咲さんの出身中学を検索にかけ、そこからいくつか引っかかったアカウントのフォロワーを元に、芋ずる式で調べ上げていく。


 すると、見事に二人のアカウントが見つかった。


 一人が『ミナ』、もう一人が『ヒナ』という名前らしく、堂々と鍵を付けずに自らの顔写真をプロフィール画像欄へ貼り付けていた。


 そこまでくれば、あとはもう簡単。


 自己紹介欄に書いてある高校名を把握し、場所を調べ上げた、というわけだ。


 もちろん、完璧とも見ることができるこの作戦も、いくつか賭けの部分はあった。


 アカウントに鍵を付けられてる可能性もあったし、そもそも調べ方に無理があるという可能性もあった。


 そうなれば、仕方なく別の方法を考えるしかなかったけど、最終的に成功し、高校を割り出すことができたので結果オーライだ。気持ち悪いとか言わないで欲しい。こっちも色々必死なのである。


『次は、色味坂ー。色味坂ー』


 次の次か。


 電車のアナウンスが鳴ったところで、俺はおもむろにポケットからスマホを取り出し、理由なく電源を入れた。


 すると、だ。


「……?」


 通知欄に、三月さんからのLIMEチャットが届いているという風に書かれている。


 すぐにアプリを開き、チャットルームへと入って既読を付けた。


 どうしたんだろう。


『今日一日、お疲れ様です関谷くん』


 届いていたのは、何の当たり障りもないもの。


 一瞬頭上に疑問符が浮かび上がったものの、すぐに察した。そういえば、今日はまだ一度も会話していない。俺の背中に指をあてがってくれることなく終わった。


 彼女は彼女なりに頑張ってみるって言って、その翌日だ。お昼とか、積極的に小咲さんへ近付いてたし、きっと色々一生懸命で、俺のことを考える暇もなかったんだろう。


 ……うん。


 ……って、なんか感覚がマヒしてきてるな。それが普通だろ。俺たち付き合ってないんだぞ!


 何ショック受けてんだ、と自分で自分にツッコみつつ、とりあえず急いで返信。


『三月さんもお疲れ様。五限に現国はきつかったよね』


 すぐに既読は付くものの、そこから先の返信がしばらくない。


 ガタタン、ゴトトンとその間に電車は揺れ、じきに三代へ着こうとしていた。


 もしかしたら、誰かに話しかけられたりでもしたのかな。


 推測しつつ、スマホから目を離し、一瞬景色の方へ視線をやると、ブブッとバイブ。返信が来た。


『はい。現国、ちょっと眠気が……(>_<)』


『だよね(笑)』


 その後も当たり障りのない会話が続く。


 これは俺の推測でしかないけど、まるで何か言いたいことがあるかのような、そんなものだった。


『先生もいきなり当てようとしてきますし、緊張してました』


 けど、互いが互いに、本題について触れようとしない。


 別に気まずくなってしまったとか、そういう関係悪化の何かがあったわけじゃないのに、どこか苦しい会話が続いた。


 そうこうしているうちに俺の方は三代駅に着くし、やり取りを切り上げなくちゃならない。


 ただ、ここで切り上げれば、察してあげられない男にならないか……?


 うーん、悩む……。


「……」


『到着。三代駅、到着』


 降車しながら、俺の指は『小咲さん、どうだった?』の文字を打っては消し、打っては消しを繰り返す。


 挙句の果てには電話しようか本気で悩んだけど、結局のところ、『ごめん、ちょっと落ちるね』と返信し、足早に歩き出した。

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