第7話 妹のつばき
「ただいま」
「あ、おかえりゆう兄~」
三月さんの家から帰宅し、玄関の扉を開けると、ちょうどリビングに入ろうとしていた妹――つばきと出くわした。
いつも通りの三つ編みにメガネ。そこから下にいった服装は――
「……はぁ……」
年季が入っていてよれよれの『怠惰』と書かれた白Tシャツに、ズボンを履いておらず、下着である水色パンツ一枚のスタイルだ。
いくら家の中だとはいえ、これは本当にひどい。ひどすぎて思わず堂々とため息をついてしまった。
外出するってなると、めちゃくちゃファッションとか気にするくせに、家だとこれだからその落差に愕然とさせられる。
「……お前さ、相変わらずだけど、もうちょいちゃんとした服着たらどうだ?」
「え、なになに突然。家に帰るなりいきなり妹の服装チェック? ゆう兄も相変わらずとんだ変態シスコンマニアだな~」
「うるせーよ。服装チェックでも何でもないし、いきなりツッコみたくなるような恰好してるお前が悪い。あと、変な二つ名で兄の名前を呼ぶのはやめてくれ」
「え~? でも事実じゃん。変態シスコンなとこは」
「一ミリも事実じゃないっつの」
「またまた~。ゆう兄はツンデレさんだからな~。ほんとは知ってんだよ? 夜な夜な洗濯物漁ってアタシの使用済みパンツを必死にクンカクンカしてること」
「さてと、今日の晩飯は何かなー?」
「ふひひっ。ほーら図星だ図星。痛いところ突かれて無視決め込んじゃってるの、わかってんだからねー?」
「うーん、いい匂いがするな。こりゃ今夜はカレーかな?」
「……っ。ま、まーったく強情なんだからぁ~。そんな無視してないで、素直に認めちゃったらどう? 妹のことが大好きですって」
「いや待て。晩飯の前にまずは風呂にでも入るか。そうしようそうしよう」
「ふぇぇ! ゆう兄無視しないでよぉ!」
靴を脱ぎながら完全無視を決め込んでいると、背中につばきが抱き着いてきた。やれやれである。
「ったく……。なら、もうあんまり俺をからかって変なこと言うんじゃないぞ? あと、服もせめて下は何か履こう。いいな?」
「はぁい……」
こうやって素直に返事をするところは正直可愛い。
中三になってそこそこ大きくなったつばきだけど、こういうところは昔と変わらずだ。
シスコンってほどじゃないし、口には絶対に出さないけど、妹が好きなのは事実なのである。
……シスコンってほどじゃない程度にね……。
「ところでさ、今日ゆう兄どこ行ってたの? 日曜だったけど、出掛けるとかちょー珍しくない?」
「……昨日言ったろ? 友達と遊んでたんだよ」
「うん。それは知ってる。知ってるんだけどさ、なんかゆう兄から女の匂いがするんだよね」
「……っ!」
「友達ってまさか女の人?」
スンスン、と背中に抱き着いてきたまま俺の匂いを嗅ぐつばき。
ドキリと心臓が跳ねた。
いや、別に女の子の家に行ってたなんてこと、つばきにバレたところで関係がこじれるとかそういったことはないんだけど……。
「い、いや、違うって。女の人なわけないだろ? 男だよ男。佐々岡たち」
「でも、今まで友達と遊んできてもこんな匂いしなかったよ?」
「うっ……! そ、それは…………そう! なんか佐々岡に彼女ができたっぽくてさ! それでその彼女から勧められた香水をたまたま付けてきてて……!」
「……ふーん」
目が怖かった。
いつものつばきの目じゃない。これはもう、人を殺したことのあるような奴がするような目だ。
「ならいいけど。女の人だったら、アタシ…………ううん、やっぱり何でもないや」
恐ろしすぎである。
女の人だったらどうなるんだ……。
俺は靴を脱いだというのにも関わらず、玄関に腰を下ろしたまま、冷や汗を浮かべ続けた。
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