第6話 おうちで二人きり②

「適当なところに座ってくれていいですから」


「あ、はい……」


 部屋に通されてそう言われるも、俺は突っ立って固まったままだった。


 置かれている家具や小物など、すべてが俺の部屋とは大違いなほどに女の子っぽく、整理整頓されている。


 確かに小さなテレビの前にゲーム機が置かれているが、それさえも部屋にワンアクセント入れるアクセサリーのように思えるほどだ。


 単刀直入に言って、未知の世界。踏み込んじゃいけない女の子の部屋。


 人生生きてきて十六年だけど、こんな経験は初めてだ。女子の部屋ってのはどうもこういうものらしい。


「……ど、どうしたんですか関谷君? 立ったままだと疲れないですか……?」


「! そ、そうですね! ハハハ! 座ろう座ろうそうしよう!」


「はい……」


 相変わらず恥ずかしそうにしながら、目を合わせてくれずに言う三月さん。


 そのしおらしい姿がより一層俺に恥ずかしさを与えてくれる。


 こういうことを言うのは絶対にダメなんだろうけど、何かの線が切れた途端に過ちを犯してしまいそうな雰囲気というかなんというか……。


「……?」


「っ!」


 小さなテーブルの傍に座り、チラッと三月さんを見やると、彼女と目が合ったので、すぐさま視線を逸らして下を向く。


 控えめに言ってヤバい。完全に二人きりで、しかも密室の中とかヤバすぎる。


「じゃ、じゃあ、さっそくアインクラフトやりましょうか」


「え? アインクラフト?」


「はい。アインクラフトです」


「あ、ああ! アインクラフトね! そうだね! やろうやろう!」


 緊張しすぎて本来の目的も忘れ去ってしまう始末。


 さっきも思っていたことだが、こんなことでこれからしばらくの時間やっていけるのだろうか。


 俺は三月さんから渡されたゲームコントローラーを握り締め、大きく息を吐くのだった。



 それから、時間はなんだかんだ過ぎていった。


 当初懸念されていた俺の理性だが、アインクラフトを始めると雰囲気が和やかなものになっていき、よこしまなことは頭から離れていった。


 単純にゲームが楽しいということもあるけど、何よりも三月さんのアイテム収集知識と建築知識が凄すぎて、勉強になることばかりだったのだ。


 元々俺より長くプレイしているからということもあるが、それを抜きにしても建築に関して言えば、空間認識能力だったり、デザインセンスだったり、どっちかというと才能に左右される気がする。


 西洋風のタワーを俺の前で作り上げてくれた時には、思わず「おぉ……」と声を漏らし、拍手してしまった。


「それにしてもすごいな、ほんと。こんなの、絶対俺作れないよ」


「そんなことないですよ。時間をかけていくつも作っていたら、そのうち簡単に作れます」


「いやぁ~。なんていうの、その螺旋階段みたいなのだけでもすげえってなるもん俺」


「螺旋階段は……こうして……こうですっ」


「おぉー! すごい!」


 俺が褒めると、軽くドヤ顔になる三月さん。


 フンスコ鼻息を荒くするのが可愛いと思った。


「でもさ、俺思ったんだけど、クラスでこうやってアインクラフトやってる奴もっといないかな?」


「クラスで、ですか?」


「うん。三月さん、前言ってたよね。少なくてもいいからお友達が欲しいって」


「はい」


「アインクラフトつながりでなら友達増やせる気がするんだけど……どう思う?」


 問いかけると、三月さんはうーん、と考え込む。


 それから、ちょっと弱気な表情になって


「……確かにそれならなんとかやれそうな気がするのですが……、私は……その……目つきが……。あと……おしゃべりも上手くないですし……」


「目つき、かぁ……」


 結局そこに行き着くのか。


 ……まあ、当然と言えば当然だったかもしれない。


 そもそも、『目が合ったら殺される』なんてことを言われてなければ、三月さんには絶対友達がいたはずなのだ。


 大事なことを忘れていた。まずはそこからどうにかしないと、か。


「でも、関谷君。私、もう少しだけ今のままでもいいんです」


「え?」


「確かにお友達は欲しいですけど、その、関谷君と一緒にいられるだけで私は楽しいですから」


「……っ!」


 笑顔でその発言は反則だと思った。


 思わず虚を突かれてしまう。


「今日は本当にありがとうございます。誰かを家に呼ぶなんて初めてでした。とっても楽しかった」


「……お、俺も……楽しかったよ。三月さんといられて……」


 死ぬほど恥ずかしいけど、言ってやった。


 すると、案の定三月さんは顔を赤くさせる。


「ほ、ほんとですか……。なら、よかったです……」


「う、うん……」


 外は既に暗くなり始めていた。


 時刻にして、十八時少し前。


 それとは相反して赤くなる俺たちだったけど、この辺でお開きにしておいたほうがよさそうだ。


 そう思い、そろそろ帰ることを三月さんに告げようとした時だった。


 たまたまコントローラーを軽く動かし、視点変更をしたタイミングで、彼女の作り出した村の村人が目に入る。


 やけに豪華な装備に身を包み、三月さんからの寵愛を受けてそうな村人だと思ったのだが、問題はそいつの名前だ。


「? ゆう……り……くん……?」


「――っっっっ!!!」


「え、三月さん、これって……」


「違うゆうりくんですからっ! 確かに関谷君の下の名前は侑李君ですけど、違うゆうりくんですからっっっ!」


 今日一顔を赤くする三月さんに弁解され、その場はなんとか?丸く収まった。


 ……うん。まあ、ゲームだとこういうことはしがちではあるよな。


 よくあること、よくあること。


 深く考えないことにして、俺は三月さんの家を後にするのだった。

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