第3話
天気は変わらず陽気な晴れ模様のまま、二人の道程は2つ目の山の麓に差し掛かっていた。
そして、”彼”が現れた。
「ベタなことを言うようですまねぇが、身ぐるみ全部置いていきな」
「誰だ」
木の陰から狼が顔を出した。高さはアルスの腰ほど、全長ともなれば170あるアルスよりも大きく見える。黒と白が入り混じった毛並みを纏っていた。噛みつかれたらひとたまりもないことは想像に難くなかった。
狼以外に声の主と思われる存在は確認できない。
「もしかして、この犬が喋ってるのか?」
「あまり舐めた口を叩くなよ
声の主である狼がアルスににじり寄る。それにともないアルスとミリアも距離を取るように後ずさる。
一触即発の張り詰めた空気が漂う中、ミリアが声を上げた。
「あなた、もしかして
ミリアの声に狼は脚を止めた。
「ほう、嬢ちゃんは物知りみたいだな」
「ほ、本でしか読んだことないけど」
「でも、
古来より獣人族や鳥人族は数が少なく、その希少性から人間に狩られ、絶滅したとされている。
「俺たち
「それで腹いせにこうやって人間を襲っているわけか」
「それもあるし、そうでもしないとそもそも生きていけねぇんだわ、俺たち」
狼の目は依然としてアルスを捉えて離さない。
「なーんも悪いことしてないのに石を投げられたことはあるか? 罵声を浴びたことは? 矢を放たれたことは? 住処に火を点けられたことは? 俺は全部やられたよ、お前ら
狼はどこか物憂げに、そして怒りに満ちた声を二人に投げかけた。
「お前らは俺たちになんもしてないと思ってるだろうけどな、俺たちはお前らに非業の限りを尽くされたと思っているよ」
狼の歩みが止まる。
「荷物とかどうでも良くなってきた。悪いが俺の腹いせのために……死んでくれや!」
叫ぶと狼はアルスの左隣にいたミリアに飛びかかった。
「ミリア!」
アルスは咄嗟に左腕を伸ばし、狼の攻撃からミリアを庇った。
「お兄ちゃん!」
「……ッ!」
アルスの左腕に狼の歯が食い込む。袖は破れ、間から血が零れ落ちた。経験したことのない激痛にアルスは苦悶の表情を浮かべる。それを見た狼は追い打ちをかけるように左腕を咬んだまま頭を左右に振った。
堪らず声を上げる。このままでは肉は千切れ、骨も折れる。
「妹は、俺が、守る……」
アルスは自分を奮い立たせるように声を絞り出す。後ろでミリアが泣き叫ぶ。
「それが、俺の、運命、だから……!」
アルスの言葉に呼応するかのように左腕からまばゆい光が放たれた。
光はアルスの左腕を包み、鎧のように厚く覆った。
やがて光が収まると、狼はあまりの衝撃に腕から口を外した。
否、外さざるを得なかった。
アルスの左腕は、銀色の鱗に包まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます