第2話
「お兄ちゃん起きて、そろそろ出発するよ」
「……ん」
木々の間で小鳥が囀り、足元では川のせせらぎが魚の往来を見守っていた。とうに日は上りきり、青空が晴れ渡り、雨が降る様子もない。時折そよぐ風が頬を撫ぜる。日々の疲れを癒やす一時の舞台としてふさわしい環境が整っていた。いわゆる、絶好の昼寝日和である。
「こんな調子で歩いてたら王都に着く頃には日が暮れちゃうよ」
「わかった、わかったから身体をゆするのはやめてくれ気持ち悪くなる」
ミリアは木に持たれて座り込んでいるアルスの肩を左右に揺さぶる。その反動でアルスの頭も大きく揺さぶられていたが、ミリアは構わず続ける。
「今日のうちに王都に着くように朝早く村を出ようって言ったのはお兄ちゃんでしょ? なのにお昼になってお昼寝なんてバカみたいじゃない」
「昼に寝るから昼寝って言うんだ。知らないのか」
「屁理屈ばっかり」
もう、とミリアはため息をつく。頭の後ろで簡単に括った金髪がわずかに揺れる。
「だってさ、こんなに気持ちのいい天気なのに寝ないなんてもったいないだろ?」
アルスは木の脇に置いておいた自分の荷物を抱えながら言った。
「だろ? じゃないよ! ほんとにお兄ちゃんは、もう……行くよ、お兄ちゃん」
どっと疲れたような顔でミリアは歩を進める。アルスもそれについて歩く。
「ミリア、疲れてるんじゃないか?」
「誰のせいで……」
「昼寝でもするか?」
「しない!」
ミリアの叫びは森の中に消えていった。
この国では16歳になれば何らかの職業に就くことが義務化されている。そのため、どの職業に就くかを見極める必要があるのだが、王都などの大都市で適性試験が定期的に開催されている。例えば、体力や筋力に秀でたものであれば戦士や武闘家、魔力が高ければ魔法使いや呪術師、知力が高ければ学者や占星師といった具合だ。冒険職でなくとも大工や農家、パン屋に床屋といった職業も選択肢の候補として含まれている。適正値の高い職に就けば王都からある程度の補助が得られる。適正値が高いとはいえどうしても相性が合わない場合は所定の手続きを踏めば転職も可能となっている。
この適性試験は比較的多方面で開催されているが、遠方の村ではどうしても足を運ぶことが難しい場合もある。その際は適性試験を受けず自分の判断で職業を選ぶことも可能だ。しかし、自分がどの職業に就いたかは後日申告する必要がある。更に国からの補助も受けられない。
アルスとミリアは今年で16になる。10年前、二人は村の外で一緒にいるところを拾われた。正確な誕生日までは不明だが、ミリアはアルスのことを当時から兄と慕っていた。
二人が育った村から王都までは山をふたつほど越える必要がある。そのために当日中に王都へ到着するためには朝早くに村を出発する必要があった。今はひとつ目の山を越えたばかりである。王都への道は、まだ長い。
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