第4話

 アルスの左腕を包んでいた光が収まり、あたりは元の静寂に包まれた。

 ただひとつ、アルスの左腕を除いて。


「お兄ちゃん、何、その腕」

「……俺が聞きたいんだが」

 アルスの左腕は銀色の鱗に包まれており、手からは鋭い爪が伸びていた。柔らかい木材であれば荒っぽく切断できそうな威圧感があった。試しに指を動かすと、およそアルスの思う通りに動く。左腕を動かす度に夕日の光が赤く反射する。

 あまりの出来事に戸惑いを隠せないアルスとミリアだが、この状況を飲み込めない存在がもうひとつあった。

「お前……人間ヒューマーじゃねぇのか……!?」

 鱗のあまりの硬さに思わず口を離した狼は、あまりの出来事に人間への恨みを忘れてアルスに問いかけた。狼の目の前ではミリアが腰を抜かしたまま身動きが取れずにいた。

「俺はれっきとした人間だ!……多分」

「んな左腕の人間ヒューマーがいるかよ!」

 アルスは今まで人間として育てられてきた。そして自身もそれを当然として今日この日まで生きてきた。しかし、当然ながら普通の人間から銀色の鱗や鋭い爪は生えてこない。

「まさか、竜人族ドラゴニア……」

「え!?」

 竜人族ドラゴニアはその名の通り竜と人とを行き来する種族である。純粋な戦闘能力は獣人族の比ではなく、竜人ドラグナーひとりで1大国の戦力に匹敵し、竜人ドラグナー所有の有無が戦争の勝敗を分けるとさえ言われていた。

「しかし、それこそ絶滅してるはずだぜ。俺みたいな獣人ビースターならまだしも、竜人族ドラゴニアなんて国の命運を左右する存在だ。まず間違いなく大騒ぎになるはずだぜ」

「それはそうだが……んぉ!?」

 困惑しきりのアルスが狼を見ようとしたが、声の先に狼はいなかった。代わりに190はあろう白髪はくはつ混じりの筋肉質な大男があった。

「ん? あぁ、人間形態こっちの方が頭が回るからな、そうしてるだけだ。気にすんな」

「気にするなって言われても……」

 先程まで狼だった大男はアルスとミリアに断ると、その場でアルスの左腕を掴み、ぶつぶつと独り言を始めた。

「ちょっ……と……」

 勝手に独り言を始めた大男をよそに、少なくともミリアは平静を保てずにいた。何故なら……。

「服くらい着てよ!!」

 狼が大男に変身してからというものの、ミリアの視界は大男の立派なモノで占められていた。

 全裸だったからである。

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