第3話 初デート?

 俺の地元はそこそこ大きいほうだと思う。

 普通にレジャー施設はあるし、大型シッピングモールも市内に二つはある。

 まあ、リア充と言っていいのか中途半端な俺にとってほとんど関係ない施設ばかりなんだけど。


「ああぁぁ~!緊張する~!」


 そんな俺も今日リア充デビューらしい。

 俺がいるのはその大型ショッピングモールの入り口前だった。背中を自動販売機に預けて人を待ってます感出している。陰キャのせめてもの意地だ。

 今日は曇り空だというのに人の熱と気恥ずかしさ、そして緊張で汗が止まらない。


「本当に来てくれるのかな。こんな陰キャな俺なんかと買い物なんて」


 リア充の巣窟であるこの場所で。

 そんな俺は安定の待ち合わせ一時間前に来てしまっている訳で。

 俺がそわそわしていると右ポケットが振動する。ラインの着信だろう。

 

『どう~?一時間前に到着している乙女チックな弟よ』


 ほっとけ。

 続いて何度もヴーヴーなり続ける着信のバイブをがん無視して顔を上げる。そこには――


「まだ、来るわけないんだよな~。来るとしても五分とか十分前だし」

 

 知らない人の山しかない。

 俺がため息をついていると後ろから肩を叩かれた。

 自販機を使う人かな。それだったら邪魔だろうし。


「すいません、こんなところで立っていて」

「いやいや、君を探していたんだけど」

「へ?飯野・・・・・・さん?」


 学校の制服姿じゃない、私服姿の飯野さんがそこにいた。

 長い黒髪は暑さ対策かアップに結っていて、白いうなじが晒されている。服もさすが読モというべきか超カワイイ。ミニパンからスラッと伸びている白い足なんてもう反則だ。

 というか、今はまだ一時間前じゃ。


「今日は君より早く着いていてこの前の誤解への誠意を示すつもりだったんだけどな」

「でも一時間前って、早過ぎない?」

「君だって一時間以上前に来ていたんでしょ?同じじゃん」


 そう言って微笑む笑顔はものすごく眩しかった。


◆◇◆◇


「それでさー、なんでライン見てくれなかったの?どこにいるの~とか、ここにいるよ~とかいろいろ送ったんだけど。最終的には電話までして・・・・・・」

「ご、ごめん。その、なんていうか」

「なんていうか?」

「俺、一つ上に姉がいるんだ。その、茂木千佳って言うんだけど・・・・・・。知ってる?」

「ああ、千佳さん!私読モでお世話になっているんだ!」

「あ~。さいですか・・・・・・」


 姉さん。余計なこと言っていないよな。俺のこととかしゃべったり――


「弟さんのことよくしゃべっていたからさー。そっかー、隼人君のことだったのか。いや~世間は狭いね~」


―――まぁ、してないわけ無いよな。っていうかどんなことしゃべったんだよ。明らかに棒読みだぞ彼女。

 

「それで姉からのラインがウザくて、無視していたんだ。だから、気づかなくて。本当にごめん!」

「いやいや、そんな必死に謝んなくていいって」

 

 そう言って手を振る優しい飯野さんをボケーっと見ながら俺は足を進める。同じ読モで成績優秀な姉さんと何故こんなに違うんだろうか。


「よし、じゃあ、ここにしよう!」

「こんなオサレなお店入っていいんすか」


 そこはいつも俺が買っているユニシロとかじゃない本当におしゃれなところだった。

 こんなところ入る機会、ほとんど無いので語彙力が欠損してしまうが、モデルや俳優が着ているようなかっこいい服がたくさん並んでいてそれを照らす照明は薄暗く、雰囲気がもう、大人だった。うん、大人。

 俺が着ている服、白いTシャツに黒のジャケット、そして安定の黒ズボンだよ?レベルの差激しくない?

 そんな気を知らず、飯野さんは何か問題でも?と言うようにスムーズに中に入っていく。俺もいそいそと入るしかなかった。

 入るとバーででも流れているようなバリトンサックスの演奏が流れている。店員も話しかけることなく静かにたたずんでいた。


「それで?…………咲ちゃんに、好まれる服を選べばいいのかな?」

「………はい。そう、ですね」

「そっか。………うん!私、結構咲ちゃんと一緒に買い物とかするんだよ~。だから、彼女の好みは、結構、知っていてさ」


 うんうん頷きながら飯野さんは服を見てまわっている。

 そうだ、浮かれてなんかいられない。何が大人だ。今まで俺がその世界にいなかっただけじゃないか。

 それに今回は飯野さんがわざわざ俺の嘘のために付き合ってくれているんだ。こんなコトくらいでへこんでどうする。明るくしないと。感づかれたら俺は二度と飯野さんとは一緒に―――。

 俺は必死に笑顔を作った。


「どういうのが、好み、なのかな?」

「うん、これなんか隼人君に似合うと思うよ」

「………。ほんとに?」

「ムムッ、私の感性を疑いますか~?私いちおー読者モデルなんてものをしているのですが」

「はい、試着させていただきます!」


 アハハハハと笑っている彼女を背に俺は試着室に向かう。

 彼女が渡してきたのはカジュアルなギアパンツに、サマーニット。どちらも明るい色。

 これが新井さんの好み、か。普通にあわせてみたらかっこいいし、センスもかなり光っている。

 それに飯野さんも考えてくれたのか、服は細身の俺を考慮してちょっとダボッとしていた。そんな小さなことがいちいち俺の心に嬉しさとして突き刺さる。

 でも――


「これ、まじで俺に似合うのかな・・・・・・」


 とりあえず試着して見ることにした俺だった。


◇◆


「うん、超似合っているよ!私のセンスに狂いは無かったね!」

「それは、・・・・・・ありがとう」


 単刀直入に言うと結構似合っていた。髪をセットしたら完璧じゃないかってレベル。

 それはそうと飯野さん、テンション高くないですか?かわいいからいいんだけど。

 気に入ったので買おうと値段を見てみると―――


「この三つで二万円?・・・・・・!?」

「アハハハッ」


 ―――飯野さんいい性格してんな~。


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