第2話 そういう反応になりますよ、普通
とんでもないことを口走ったその日の夜、俺はベッドの上でゴロゴロ転がっていた。
「ああああああああ!!!は ず か し い!死にたい~!死にたいよぉぅ!誰か、だれか殺してくれ~!」
「うるさいよ、あんたさっきからさ。殺してあげるって言ってんじゃん。弟よ」
「うるさいなぁ!ほっといてくれ」
「じゃあ、その口を閉じて息すんな。うるさい」
「死ぬわ!」
姉がこちらを壁に空いた穴からこちらをのぞいてきていた。あれは俺が以前別の女の子に振られたときに作った穴なので文句は言えない。カレンダーでいつもはどちらも封をしているが、今日は俺が騒いでいたので開けられている。
「まーた振られたの?懲りないねぇあんたも」
「今回は振られていません~!振られる前に逃げたんですぅ~」
「ウワダッサ、男としてどうなん?それ。不能なの?」
「仮にも高三の淑女がそんなこと言うんじゃない!」
しかし俺がダサいのは事実。だってあの後――
◇◆◇
「えっと咲ちゃん?」
「え、っと、あの・・・・・・」
まさか20分前に来てくれるとは思ってもいなかった。だってあの飯野さんだよ?学校の四大美女なんていわれている人だよ?
そんな人が目の前にいて、振られるとしてもちゃんと向き合ってくれていることがうれしくないはずがない。俺はその時マジでパニクっていた。
当然彼女は戸惑っている。そりゃそうだろう。完璧に告白する流れだったというのになんか振られた話が違ったんだから。
「え、えっと………。これは私が恋のキューピッドとして活躍するってことでいいの……かな?」
「えっ………はっ、はひ」
「あっ、あ〜〜〜」
彼女は頬をかいて上を向く。
そうだよな。普通反応に困るよな。当然だよこんなバカみたいな頼み事。
俺がやっぱり大丈夫だと言おうとすると突然パンッと乾いた音が鳴った。見ると飯野さんが自分の頬を両側から叩いている。
「ご、ごめんね!私いつもこういうところで告白されているから、今回もそういうケースなのかなって思っちゃっていて。自意識過剰だよね。本当にごめん!」
「いや、その、別に……」
「確かに彼女、ちょっととっつきにくいもんね。うん、そう、そう………だよ」
「ハハハ、まぁ、言っていいのか分からんけど………」
「話す人、私とか、ちょっとしかいないし。………うん、いい子なんだけどね。かわいいし、実は…………優しいし」
「そ、そう、だよね。優しいと思うんだ、よ」
「そっか~。本当にゴメンね。勘違いも甚だしいよね。忘れてくれたらうれしい、な」
「う、うん………」
なに?この俺の返答。そうだったじゃん。そうする予定だったじゃん。
俺が返答に窮していると彼女は赤くなった頬のまま俺に近づいてきた。そしてそのまま手を握ってくる。
「え、ちょっ」
「…………わかった」
「へ?」
「わかったよ。私あなたの恋、…………応援してあげる」
◇◆◇
「あははははははッ。脈、完っ全にないじゃん」
「うるさいなぁ!そんなの俺が一番分かっているに決まってんだろ!」
足をばたつかせながら俺は枕に顔を押し付けて叫ぶ。すぐに母親のうるさい! って言う声でやめざるを得なかったけど。
「でも、いいんじゃない~。ごまかしから始まる恋なんてロマンティックじゃん!」
「応援するよっていわれた時点で脈なしのオワコンだよ」
「ちがうちがう、そのごまかしたほうと付き合っちゃえばいいじゃん」
「モテル
俺の姉はこんな性格ながらかなりモテる。
小遣い目的で読モなんてものやっているしその副産物でファッションセンスも神。成績も優秀で友達も多い。学校のマドンナとまでいわれているしな。
顔平凡、成績普通、友達そこそこ、センス皆無の俺と本当に同じ血が流れているのか不安になる。
「俺が好きなのは飯野さんだけなの!今後どんなことがあっても多分変わることは無い!……と思う」
「最後のいる?」
嘆息をつきながら姉は穴から顔を引っ込めるとカレンダーで穴をふさいでしまった。
あ、諦められた。そう思った瞬間俺の部屋のドアがバーンと開く。
「ちょ、姉さん。何してんの! ドア壊れるしいきなり来られたら思春期真っ盛りの男子高校生は困るって!」
「あーごちゃごちゃうるさい!」
「あ、ちょ」
姉は俺のもとまで歩いてくると持っていたスマホを奪い去る。そして部屋に戻っていった。
もちろん慌てて姉の部屋まで行くが鍵がかけられていて入ることが出来ない。俺の部屋には鍵なんて無いのに……男女差別反対だ!
まぁ、ロックかかってあるから開けないとは思うんだけど……。
「たしかアンタの暗証番号って11*9だったよね~。お、当たった」
「なんで知ってんだよ!」
ふさいでいるカレンダーを押しやって姉の部屋を覗くとベッドの上でごろごろしながら俺のラインを開いている姉の姿が見えた。タップしているのは―――
「飯野ってやつでいいのよね~」
「やめてくださいお願いします一生のお願いです触らないでください!」
「はい、送信完了~。ほれ」
穴に向かって勢いよく投げられたスマホ(何気にコントロールいい)をキャッチした俺は送信削除を押そうとする。だがもうすでに既読の文字がついていた。
「なにやってくれちゃってんの!しかもなにこの文面!」
「え?至極真っ当じゃない?ふつうこうするでしょ」
「姉さんと違って俺は恋愛初心者なの!」
えー、童貞の意地乙~なんていっている姉を放っておいて俺はラインの文面を見直した。
『夜遅くにごめん』
『その、恋愛相談の件だけど、今週末開いてないかな?』
『もしものためにさ、服とか買っておきたいんだけどその、女の子の印象とか知りたくて』
―――誰だよ、これ。
「いやいやいや、……………何してくれてんの?マジ」
「返信来た~?」
「俺の話聞いて―――」
俺が文句言おうと立ち上がったときヒュポッっと返信の音が聞こえる。姉もそれを聞きつけたようで穴から顔を出した。
「返信は~?どう?どうだった?キモイって?」
「笑うなよ………って、え?」
そこに表示されていたのは簡単な三文字。
「え?マジ?」
「いいよってきたでしょ~。良かったじゃん」
「…………いよっしゃああぁあああぁあぁぁぁぁ!」
その晩は眠ることは出来なかった。
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