第10話いいこと

「ご機嫌よう、カレン」


「また、来週カレン」


「ええ、ご機嫌よう。バネット、アルト」


放課後声をかけられたので、軽く会釈し、微笑むと嬉しそうに去っていった。


2人とも同じ学年だけどクラスが違う。


先週の土曜日に婚約解消してから、急に男性に声をかけられるようになった。セリカとステラも驚いていた。


多分、婚約解消したから声を掛けやすくなったんだろうな、と思ってる。実際学園で婚約している人は何人かいるが、相手がいるのに気安く異性は声をかけにくいもの。


あれからなるべく2人に会いたくなくて、教室にシルビアがいる時はセリカとステラの側にいた。


帰りもなるべく会いたくないから、兄様と帰ってるが、今日は用事があって1人で帰ることになった。


やだなあ・・・。


夕方のひんやりとした寒さと、夕闇が気持ちを沈ませる。


早く帰ろう、なんか寂しい気分になってしまう。


「カレン」


甘い声が背後から自分の名前を呼ぶ。


この嫌な声。


「カレン。少し話があるんだ」


違う声がする。ずっと側で聞くはずだった声。


でも、今はとても遠くで、ただ、辛いだけの声に変わった人。


「何?」


振り向いた。


本当なら無視して帰りたかったが、そんな事をすれば逃げたと思われる。それも嫌だがもう、関わりたくない。


「カレン、そんな怒った顔しないでよお。怖いわあ」


わざとアルファードの後ろに隠れる。


ギュッと体が硬くなる。


それを困った顔でアルファードは私を見た。


「どうしたの?何か用?」


自分でもびっくりするくらい冷静だった。


こんなにも動悸は激しく動いて、震えているのに、声はとても落ち着いていた。


「シルビアがとてもいい事に気づいたんだ」


「いい事?」


嫌な事にしか聞こえないけれど。


「もう少ししたら私の誕生日パーティーがあるだろ?」


「そうだったわね。2か月後ね」


色々あって忘れていた。


「シルビアがカレンのパートナーがいないから探してあげたら、と言ってくれたんだ。優しいと思わないか?私は全く気づかなかった」


「・・・え・・・?」


言っている意味が分からなかった。


探してあげて?


得意そうに2人は微笑み、


「だってねえ、カレンは今までアルファード様の婚約者だったから、アルファード様がいたけど、これからはどうするのかなあ、て不安になったの。誰もいなくてえ、適当に男爵とかと一緒にパーティーに来たら、アルファード様が恥ずかしいわ」


「それは言い過ぎだよ。私は別にカレンが誰を連れてきも問題ないけど、確かに誰もいないとなると、困るだろうから、私の友人を紹介してあげようと思ってるんだ」


あげようと、か。


なんて酷いことを平気で言う人達なんだろう。


アルファードにとって私は本当にただの友達みたいになものだったんだろう。あなたの幸せがどれだけ私に鋭く突き刺さるか思いもしないんだろう。そして、全く私の気持ちをしらなかったんだと、思い知らされる。


自分達が幸せだからって、押し付けるようなことだと分かっていない。


「ね、それならカレンも心配しなくてもいいでしょう?婚約解消したとしても、今まで婚約者だったんですもの。あんまりい、パートナーの事とか考えてないでしょ?結構大事なんだよ」


「そうなのか?シルビア」


「あら、女性の価値が問われるんですよ。勿論お互いが好き同士でしたら問題ありませんが、そうでなければ、素敵だと思われる女性には、爵位の高い男性が声をかけます」


バカバカしい。

自慢げに言ってるけど、爵位なんて関係ない。実際男爵でもやり手の方は、とても裕福で紳士的だ。

変に爵位が高いだけで、生活に困窮している人だっている。

なんだろう・・・。

とても自分が遠くに感じた。


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