第四章 君ありて。 ①
母は席を外した。
私は起き上がり、彼は母が座っていた椅子に腰かけた。
「なかなか来ないから何かあったのかと思ったけど……はあ、はあ」
彼の息はまだ荒かった。
……竹内くん、その足でどれだけ急いできてくれたの?
嬉しかった。私はとっさに両手で顔を隠した。
「え、あ、どうした?」
「んーん。なんでもない。来てくれたんだと思って」
彼は心配そうに私を見つめた。
「そりゃ行くだろ。そんなの……行くに決まってるだろ」
何かを言いかけたていたれけど、察して聞かなかった。
「私、バス停で倒れたの。さっきママから言われた。三か月だって」
その言葉に彼はしばらく絶句していた。
「三か月で、やれることってあるかな」
「あるよ……きっと」
私は視線を彼から逸らした。
「せっかく、竹内くんに生きる希望を貰ったのに。あと一年は生きれると思ったのに……」
これからたくさん、思いで作ろうと思えたのに…。
やっと希望が持てたのに…。
「竹内くん」
花音の目からまた、涙があふれだす。
「……悔しい……」
「死ぬの怖いよぉ……」
これだけは言わないと決めていたのに……。
「……雪野」
彼は私の名前を呼び、優しく抱きしめた。
どこまでも優しい彼に、私は声を上げて泣いた。
年が明けると、私は少しずつだがに回復し一月が終わる頃には一時退院が認められた。
久しぶりの登校。この日も早く学校へ行き日記を書いた。
『昨日、一週間の一時退院が認められた。もう最後ってことになるみたい。ユメといれる最後の時間。大切にしよう』
生徒が登校し始めて、やがてユメもやって来た。
立ち上がり、笑って見せるとユメは走ってきて私に抱き着いた。
「心配したじゃない。ライン返ってこないし、一か月も休むから。死んだかと思ったじゃない」
ユメには体調が悪いとラインを入れたが、その後の返信は返せていないままだった。
「ごめんね。スマホ壊れてて」
「いいよ。生きててよかった」
『生きててよかった』その言葉を聞いて、胸が痛かった。
この日から一週間の間、ユメの塾がない日に遊んだ。
遊ぶと言っても、いつも行っていたカフェで他愛もない会話をしたり、家で一緒に好きなアニメを見たり漫画を見たりと、何気ないな日々を送った。
そして最終日、この日はユメの家で遊んだ。
特別なことは何もしない、いつも通りの時間を過ごして気が付くと帰る時間になっていた。
「そろそろ帰るね」
「もうこんな時間か。外まで送る」
ユメと玄関を出た。
「じゃあ、また学校でね」
「うん。またね。ばいばい」
そう言って、歩きだした。
ふと足を止めユメの方を見た。そこにはもうユメの姿は無かった。ユメの部屋の明かりを見つめて思った。
ユメ、あの時声をかけてくれてありがとう。
私と友達になってくれてありがとう。
こんな自分勝手な私だけれど、許してくれのるならお葬式には来てほしいな。
……ごめんね。
視界がにじむ。そして小さく呟いた。
「……さようなら」
月明かりに照らされた夜道を歩きだす。もう振り返ることも無く。
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