秘密を知った ②

 次の日も、彼女は早く登校していた。やはり横顔だけだと思い出せない。

 俺は昼休み、健太に「自販機行ってくる」と言って教室を出た。

 彼女を探すためだ。

 昨日は健太がいたから、まじまじと教室を見ることは出来なかった。

 三組が近づくと歩くスピードを緩めた。中をのぞくにしてもガン見してしまうと女子が騒いでしまう。気づかれないように横目で見ると、彼女の姿があった。友達と席をくっつけて楽しそうに話している。

 「こっち向かないかな」

 すると、彼女の友達が俺に気付き俺の方を指さした。指された方を辿るように彼女がこっちを向いた。

 俺は立ち止まり彼女と目が合った。急に恥ずかしくなり足早に三組を通り過ぎた。

 「かわいかった」

 思わず口からこぼれた。と同時に思い出した。

 あれは俺が先生に、明治大学からスカウトが来ていると話をされた日の職員室。俺たちが話している前のデスクで、三組の担任と何かを話していた人だ。

 そんなことを考えながら一階の自販機でジュースを買い、戻ろうとすると健太が階段を下りてくるのが見えた。

 「俺も買うー」

 そう言ってこちらへ走って来た。

 健太も買い終わり、階段を上っていると金髪でオールバックにピアスを付けた拓海が降り来た。

 「おお、拓海」

 俺の声に反応し、苛立った顔でこちらを見る。きっと今から生徒指導室に行くのだろうと勘づいた。

 拓海が学校にいる日は、必ずと言っていいほど生徒指導の先生に呼び出しを食らっている。

 「久しぶりだな」

 拓海は「おう」とだけ言い捨ててそそくさと階段を降りて行った。

 拓海は一年の冬まで俺や健太と同じくサッカー部に入っていた。しかし、練習中に再起不能の大けがをしてすぐに辞めてしまった。それから荒れ始め、あまり口をきいてもらえなくなった。

 「なんだよあの態度」

 健太はそう言った。

 「しょうがないよ。あんなに好きだったサッカーが出来なくなったんだ。気持ちはわかる」

 俺たちは教室へと戻った。

 健太に彼女のことを話そうと思ったが、五時限目の予冷が鳴ったので後で話すことにした。

 その日の練習終わり、健太に彼女のことを話した。

 「なあ、三組の早登校の女子いるじゃん」

 「ああ」

 「あの子の顔、俺タイプかも」

 健太が「ほらやっぱり」と目を見開いて言って続ける。

 「で、どうするの?学校の人気者が告っちゃえば絶対オッケーもらえるぞ」

 俺は彼女のことを何も知らない。

 「いや、まずは友達からでしょ」

 「でもいいのかなー」

 健太はスパイクをシューズケースに入れながら言う。

 「人気者と特定の女子が仲良くしてたら、周りが嫉妬して良く思わないんじゃないか?」

 そうなるのは可哀そう。だが、俺だって恋がしたい。

 「そんなこと心配してたら、俺の高校生活終わっちまうじゃねえかよ」

 「じゃあ、声かけるの?」

 「まあ、タイミングを見てな」

 そうは言ったが、声をかける勇気はなかった。 

 女子にモテるだけで、今まで彼女がいたことなんてなかった。みんな俺のことを、アイドルを応援するように、『推し』止まりで告白されたことはほとんどなかったし、自分から告白する勇気もなかったから。


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